養老先生の中で「ずっと引っかかっていること」
こんなことを言うのは、私がかつてやっていた仕事が老化の問題と無縁ではないからです。
山中先生と一緒にノーベル賞を受賞したイギリスのガードンは、カエルの小腸の細胞核をカエルの卵に移植して、おたまじゃくしを作りました。これがクローン動物の始まりですが、ガードンのこの論文が出たのは、私が大学院生のときでした。
当時、この論文に感動した記憶があります。私は解剖学をやっていたので、クローンの個体がたくさん欲しかったのです。
解剖学的な構造がすべて遺伝子で決まるのであれば、クローンの解剖学的な構造もすべて同じになるはずです。そうならない部分があれば、それはエピジェネティック(DNA塩基配列の変化とは独立した機構)といって、遺伝子では直接決まらない部分です。エピジェネティックな部分が身体のどこにどれだけあるのかは、クローンがあれば知ることができるはずです。
しかし、当時の東大解剖学教室ではクローン作りはできなかったので、頭の中で考えただけで終わってしまいました。このことは、私の中でずっと引っかかっていることの1つです。
養老 孟司
東京大学名誉教授