4. Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大きく低下し50%を下回る
最後に、オフィス拡張移転DIのビルクラス別の推移を確認する[図表4]。
2019年のAクラスビルの拡張移転DIは92%と、ほとんどのテナントが拡張移転であった。当時は、IT企業を中心に企業の拡張意向が強く、人材確保や働き方改革を目的としたオフィス移転も多く見られるなか、立地やスペックに勝るAクラスビルがこれらの需要の受け皿となった。
しかし、コロナ禍以降、Aクラスビルの拡張移転DIは、2020年に61%、2021年上期には35%まで低下した。Bクラスビル(2019年85%→2020年67%→2021年上期59%)やCクラスビル(同79%→63%→63%)と比較しても、Aクラスビルの下落幅が大きい。現状、Aクラスビルへの拡張移転を決める企業は少なく、グループ会社の集約などを中心とした縮小移転が多いようだ。
ただし、Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大幅に低下したにもかかわらず、空室率の上昇は小幅にとどまる。Aクラスビルは、解約時期が限られる定期借家契約や大企業の割合が高いため、今のところオフィス床を実際に解約する動きは限定的である。また、大口のオフィス需要が乏しいなか、賃借面積の縮小と引き換えに立地やスペックなどのオフィス環境の改善を目的とした需要を小まめに拾い上げているほか、賃料を柔軟に調整することで空室の早期解消を図っていることが考えられる。しかし、オフィス拡張移転DIが示す通り、Aクラスビルにおける企業の拡張移転意欲は乏しく、定借期限を迎える大口テナントの動向や今後供給が予定される新築オフィスビルの内定動向を注視したい。