(※写真はイメージです/PIXTA)

自身が所有するビルで、漏水による悪臭が発生……ビルの一室で美容室を営むオーナーから「長年の漏水で正常に営業できなかった」と訴えられてしまいました。このケースにおいて、賃料減額や慰謝料は発生するのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際の裁判例をもとに解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

 

1.漏水が生じていた期間の賃料の減額請求

 

改正前の民法611条は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。」と規定されていました。

 

この規定は、2020年4月の民法改正により、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。と改正されたため、本件のように、「滅失した」とまでは言えないような場合でも、使用収益が妨げられているという事情があれば、賃料の一部減額が認められることとなります。

 

本件は改正前の事案ですが、裁判所は、賃料の一部減額の可否について、

 

「原告と被告が、本件賃貸借契約締結当時、本件物件の窓に雨水の進入経路があることを前提に賃料を定めたことをうかがわせる事情は認められず、原告と被告は、本件物件にかかる雨水進入経路が存在することを前提とせずに賃料を定めて本件賃貸借契約を締結し、その後になって、本件物件に雨漏りが生ずることが明らかになったものと認められる。賃借物の窓に雨水進入経路が存在するか否かは当該賃借物の賃料を定めるに当たって当然考慮されるべき事項であるといえる」

 

と述べて、改正前民法611条1項が類推適用して、賃料の一部減額を認めました。

 

では、一部減額が認められるとして、どの程度の賃料の減額を認めたのでしょうか。

 

賃借人側は、月額16万円の賃料の30%の減額を主張していましたが、裁判所は以下のように述べて、16万円の内、2万円の減額のみを認めました

 

「本件物件は、大雨が降ると雨漏りが発生し、フローリングに、面積にして約20平方センチメートル程度の水たまりができ、雨が降った後は本件物件の内部にカビくさいような何ともいえない悪臭が2ないし3日間漂う状態であった事実が認められる。
他方で、大雨が降った日及びその後2ないし3日間を除く期間については、本件物件の窓に雨水進入経路が存在することによって使用収益が妨げられるものではないものと認められる。

 

もっとも、いつどの程度大雨が降るかということは知る由もなく、かかる物件を賃借した場合には、賃借人は、いつ雨漏りが生じるような大雨が降るかという不安を抱えながらその使用収益をせざるを得ないという事情も認められる

 

上記認定事実及び前記前提事実を総合考慮すると、本件物件に雨漏りがあったとすれば減額されたであろう賃料額は月額2万円であると認めるのが相当である。」

 

この点については、不具合等により使えなくなったスペースが明確に別れている場合等であれば、減額される賃料の算定は容易と思いますが、そうでない場合は、客観的な規準等で算定されるものではなく「感覚的」に判断される傾向があります。

 

2.慰謝料請求

 

本件の特色としては、賃借店舗内に漏水が長期間生じていたこと、賃貸人が抜本的な対応をしなかったことを理由として、賃借人が慰謝料の請求も行ったということです。

 

賃借人側は、慰謝料として150万円を請求しましたが、これに対して、裁判所は、以下のように述べて慰謝料20万円を認めました。

 

「これまでに判断したとおり、原告は、上記事実関係に基づき、平成24年3月分から平成25年5月分までの賃料月額2万円の減額請求権をすることができ、雨漏りによって損傷した内装についてこれを補修するための費用の支払を求める権利を有しており、被告の債務不履行によって原告の精神的苦痛は、上記請求権の行使によってある程度慰謝されるものと考えるのが相当である。」

 

「しかしながら、前記前提事実によれば、被告は、本件賃貸借契約上の義務違反が認められ、かかる義務違反が合計約8年間という長期にわたったことが認められる。かかる長期間雨漏りをする店舗での美容院経営を強いられたことによる精神的苦痛は、上記本件において認められる財産的損害の賠償により全て慰謝されるとまではいえないというのが相当である。

 

以上の事情を総合考慮すると、原告の被った精神的損害に対する慰謝料は20万円と認めるのが相当である。」

 

賃借人からすれば、かなり低いと感じる金額とも思われますが、こういった当事者間の契約違反が問題となる事例では、慰謝料が認められるケースというのは多くなく、慰謝料が認められているという点で特殊な事案といえます。

 

※この記事は2021年11月5日時点の情報に基づいて書かれています。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

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