高齢者に「妄想、幻覚、徘徊」といった症状がみられたら、認知症を疑うことでしょう。医者でも疑い、そのまま「誤診」してしまうことがよくあるといいます。本当は完治も可能な身体疾患なのに、「治らない認知症」と誤診され、適切な治療がおこなわれなかったら…。医療法人昭友会・埼玉森林病院院長の磯野浩氏が、実例とともに解説します。
恐ろしい…もしも以前のクリニックを再診していたら
しかし、残念なことに医療機関で甲状腺機能低下症が見逃され、誤った診断がなされたために、翻弄されることになってしまったのです。高齢になると体の病気でも認知機能が悪くなる、ということを医療機関側が分かっていなかったために起こったと推察されます。
もし、ショートステイの期間が切れたときに当院ではなく、もともとかかっていたメンタルクリニックを再診していたら、ずっとアルツハイマー型認知症として扱われ、進行抑制薬を投与され続けていたかもしれないのです。
当然、薬は効きませんから、母親はずっと認知機能も体調も悪化したまま、自立した生活もできずに命を終えていたかもしれません。そう考えるとこれはかなり深刻な誤診です。
認知症は診断の難しさに対し、診断スキルが必ずしも平準化されておらず、医師によって診断がぶれやすいために、こうした誤診や不十分な診断が多発している実情があります。
磯野 浩
医療法人昭友会 埼玉森林病院 院長
医療法人昭友会 埼玉森林病院 院長
昭和大学医学部を卒業し、精神医学教室入局。昭和大学病院等に勤務。
20数年ほど前から老年精神医学を専門にし、浴風会病院勤務時は認知症の脳の病理解剖診断も多数経験した。
並行して品川区大井保健相談所での老人精神保健相談も務め、訪問診療も積極的に行い、臨床の経験も重ねる。
2007年4月~埼玉森林病院副院長。
2009年4月~埼玉森林病院院長に。現在に至る。
2004年 日本老年精神医学会 学会奨励賞。「レビー小体型痴呆の臨床的特徴と診断基準の有用性について」
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連載老年医学の専門医が解説「認知症診断の不都合な真実」