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アマゾンはすでに保険市場へ参入している
センチュリー21だけではない。アメリカとイギリスでは、1000社以上の小売り事業者が同じような運命をたどっている。保険会社が揃いも揃ってパンデミックによる利益保険の保険金請求を拒絶しているからだ。一部の小売業者は長期にわたる訴訟も辞さない考えだ。センチュリー21の場合、あれほど経営陣が情熱を傾けて経営してきた家業だけに、八方塞がりの悲しい結末となった。
このような補償不足に、保険料の高騰が拍車をかけ、状況は悪化するばかりだ。最近のCNBCの報道によれば、高騰する保険料がついにインフレや所得の伸びを上回りつつあるという。さらに記事は、家族補償型の保険料平均額は過去5年間に22%上昇し、過去10年間では54%増になったと伝えている。
とりわけ大規模な混乱の真っ只中でこうしたゴタゴタが相次ぎ、値上がり傾向が続くと、保険などの業界は、利便性や充実度の高い選択肢を求める顧客の混乱や離反につながりかねない。ただでさえ、頂点を極めた怪物企業らが新たな獲物を探し回っているのに、保険業界の動きは、わざわざ強い匂いを放って捕食者を招き寄せているようなもので、見ているこちらがハラハラしてしまう。実はすでにある捕食動物が触手を伸ばしているのだ。
アマゾンでは、一部の国で電子機器から家電まで幅広い製品を対象に「アマゾンプロテクト」なる製品保証延長サービスを提供している。アマゾンが取扱商品を住宅や高級品、自動車など大型商品にまで手を広げるなか、それに付随する保険事業には手を出さないと言い切れるだろうか。
実はインドなどの地域で、アマゾンはすでに保険市場への積極的な参入を進めているのだ。2018年、アマゾンは独自の保険商品の販売を定款に含め、インドの会社登記局(ROC)に届け出ている。企業情報サービスを手がけるCBインサイツは、「2019年3月、アマゾンがインド保険規制開発庁(IRDAI)から法人代理店免許を取得し、保険事業拡大の準備を整えた」と報じた。
保険に着目している怪物企業は、アマゾンだけではない。2018年、京東は独保険大手アリアンツの中国法人である安聯財産保険(アリアンツ・チャイナ)への30%の資本参加が承認され、第2位の大株主に躍り出た。その1年前には京東に出資しているテンセント(騰訊)も同様の動きを見せ、保険会社「微民保険代理」の過半数株式を取得して、テンセントのサイト上で保険商品をオンライン販売する営業免許を取得した。
保険業界にとって憂うべき状況なのか。そのとおりだ。カナダの保険会社であるカナダプロテクションプランで保険販売の最高責任者を務めるマイケル・アジズは、保険専門誌『インシュランスビジネスカナダ』2018年11月号で、次のようにインタビューに応じている。
<アマゾンやグーグルが参入するかと言われれば、そのうち、この業界に目を向け始めるでしょうね。ただ、そう簡単に保険販売に乗り出せるのか、という意味では、規制当局はまだそのつもりではなくても、そのうち認めるでしょう。それだけに、分野を問わず保険会社にとっては、インシュアテック(保険×IT)を前面に押し出し、競争の次なるステージに備えて万全の態勢を整えておくことがとにかく重要なんです。>
顧客体験に圧倒的な格差があることを考えれば、保険会社は否応なしに、ここで言う「競争の次なるステージ」を迎えることになる。さらに、アマゾンやアリババといった企業は、これまでもさまざまな専門分野に部外者として乗り込み、そこに横たわる大きな問題を探し出しては、テクノロジーを駆使して解決する絶大な力を見せつけてきた。
保険会社に残された道は1つ。業界の課題を自力で解決するか、例の怪物たちが解決してくれるのを座して待つか。もちろん後者であれば、問題解決と同時に業界自体が召し上げられることになる。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント