(※写真はイメージです/PIXTA)

老朽化した賃貸物件から賃借人を立ち退かせるため、しばしばオーナー側が主張するのが「老朽化に伴う耐震補強工事」です。しかし、賃借人と裁判になった場合、裁判所はこれを正当事由としないケースがあります。そこには「経済合理性」という判断基準が働いているのです。どういうことでしょうか? 日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が専門家の見地から詳しく解説します。

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旧耐震基準の建物は、耐震補強工事が努力義務だが…

耐震性能とは「地震力に対する建物の強さ」をいいます。1981年に改正された建築基準法の耐震基準(いわゆる「新耐震基準」)は、中規模の地震動(震度5強程度)でほとんど損傷せず、大規模の地震動(震度6強~7に達する程度)で倒壊・崩壊しないように設計されています。したがって、新耐震基準が適用される年代に建築された建物は、耐震性能に問題がないものが多いのです。

 

他方で、1981年以前に作られた旧基準時代の建物は、耐震性能が不十分であるものがあるため、建築物の耐震改修の促進に関する法律(いわゆる「耐震改修促進法」)で、一定の指標以下の建物に対して耐震補強工事を行うことで、一定の耐震性能を備えることを努力義務としています。

「耐震診断の数値だけで正当とはいえない」

正当事由の主張では、「耐震性能が不足していること」が老朽化とセットで論じられることが多く、実務的には、極めて重要な要素のひとつです。

 

耐震性能を診断した結果、耐震性能が不足していると判断された場合であっても、裁判所は、どの程度の規模の地震が、いつ、どこで起きるのかについては、将来の予測に関する事項であるから、耐震診断の数値だけに依拠して正当事由を認めることには消極的です。

 

裁判所は、より実質的に、耐震性能の著しい不足や、ひび割れ・変形・老朽化等によって構造的な欠陥が生じている場合などでない限りは、直ちに建替えが必要なほどの状態ではないと判断しているものがほとんどなのです。

 

他方で、耐震補強工事によって建物の耐震性能の向上を図ることができる場合であっても、常に当該工事を行うことが求められるわけではありません。

「高額&賃貸面積が減る補強工事」は合理的といえない

耐震補強工事に要する費用や、その工事に係る費用(テナントに支払うべき休業補償)及び耐震補強工事をした後の建物の使用勝手を検討して、社会経済的に「建物の建替え」のほうに合理性がある場合には、耐震補強工事を図ることは現実的ではないとして、正当事由の一要素として肯定的に考慮されています。

 

ある裁判例をあげてみましょう。ある建物の耐震補強の工事費用に約1億8060万円、テナント休業補償(5ヵ月)として約6700万円の、合計約2億4760万円の費用がかかるものの、解体建替費用は、解体費用約5000万円、新築費用約5億3500万円の、合計5億8500万円と算出されました。

 

この数字を見ると、耐震補強工事には、解体建替工事の半額以上の費用がかかることがわかります。そのため、「補強工事によって賃貸可能面積が減少することを考えると、社会経済的に、必ずしも合理的な選択肢であるとはいいがたい」と、裁判所は判断しました。

 

この例からもわかるように、建替えの検討にあたっては、事前に専門家へ、①耐震性能を診断してもらい、②耐震補強工事の内容、それに要する費用と期間、③耐震補強工事後の建物の使い勝手を明らかにしてもらう、といったことが、極めて重要となってくるのです。

 

※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

 

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