競売物件を落札後…「安すぎる家賃設定」の増額請求は可能か? (※写真はイメージです/PIXTA)

投資用不動産として競売物件を落札したところ、以前のオーナーが現在の入居者に、周囲の家賃相場から見ても破格の賃料で貸していることが判明しました。オーナーと入居者が、とくに親しい関係だったため、そのような状況になっているようですが、落札した人は、家賃を近隣相場と同じくらい取りたいと考えています。法的に見て可能なのでしょうか。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が詳しく解説します。

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「近隣相場と比較して安い」だけでは理由にならない

競売物件として、好立地にある優良な賃貸物件が出ているのを見つけました。しかしその物件は、近隣相場にくらべて相当低い賃料で賃借されていることがわかりました。賃料が低いのは、現所有者と賃借人が密接な関係であるからだという理由も判明しました。

 

このような場合、該当の物件を競落したあとで、賃料の増額請求はできるのでしょうか。

 

そもそも「借地借家法32条1項が定める賃料減額事由は、家賃が従前の合意時からの経済事情等の変化により不相当になったことを要するものであって、例えば、従前の賃料合意時から近隣の賃料相場に比較して極めて高額の賃料額が定められていたのであれば、その状態が継続している限り当然には『近傍同種の建物の借賃に比較して不相当になった』ということはできない。」(東京地裁平成26年8月27日)と解されています。

 

そのため、「近隣相場とくらべるとかなり賃料が安い」という事情だけで賃料の増額請求をすることはできません。

では「家賃を安くしてもらった事情」が消滅すると…?

しかしながら、この物件が競落されたあとは、現所有者と賃借人との「密接な関係」という特殊事情は消滅することになります。それにより、賃料増額請求の要件を満たすことになるのかどうかが問題となります。

 

そもそも、借地借家法32条1項は、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」は、賃料の増減を請求することができると規定しています。

 

そして、「同条所定の経済事情の変動等は例示であると解すべきであって、上記の不相当性については、経済事情の変動等のみならず、現行の家賃が定められてからの期間の経過、当事者間の特殊事情の変化等の諸事情を総合考慮し、従前の賃料を維持することが衡平か否かという見地から判断するのが相当である。」と判示するもの(東京地裁平成27年3月18日)があり、同じ趣旨の裁判例も存在します。

 

したがって、ここであげた事例についても、物件の競落によって現所有者と賃借人との密接な関係という特殊事情が消滅するため、その事情を考慮し、賃料増額が認められる可能性は十分にあると考えられます。

東京地裁「差額配分法による試算賃料も重視を」

実際に、①現所有者と賃借人が本件物件を低額な賃料で賃借りし、低額な賃料のままだった理由は、現所有者と賃借人とのあいだの密接な関係という特殊な事情によるものであり、②本件建物の競落に伴う賃貸人の移転により消滅したことが明らかな事案において、「当初の本件賃貸借契約の内容は、賃料を低額に定めるものであったところ、原告もその賃貸人たる地位を承継し、本件賃貸借契約の内容を承継したものであることからすれば、スライド法による試算賃料を重視すべきであるが、賃料増額の理由が、前記のような特殊事情の消滅によるものであることからすれば、差額配分法による試算賃料も重視すべきである。」(東京地裁、平成27年2月26日判決)と判示して、賃料の増額を認めました。

 

そのため、本件のような事例においても、当該物件を競落したあとに、賃料の増額請求が認められる可能性があります。

建物増減額が認められた裁判例、3つ

なお、上記以外にも、賃貸借当事者間の特殊事情の変更を理由に、建物増減額が認められた裁判例はいくつか存在します。例えば、

 

①親子関係という特殊事情があったために低額に賃料が定められていた場合に、その特殊事情が本件建物の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転により消滅した場合について、賃料の増額が認められた事例(東京高裁平成18年11月30日判決)

 

②建物の所有者が賃借人会社の代表取締役であり、賃貸人の収益性と比べ賃借人の経営状況を重視して定められていたという特殊事情があった事案について、その特殊事情を加味した上で、差額配分法を適用して適正賃料を求めた鑑定に基づき賃料の増額請求を認めた事例(東京地裁平成25年8月2日)

 

③取壊予定の建物から立ち退いてもらうための対価として建物の賃料を相場賃料の半額以下とした事例において、十分な期間が経過した時点で、相場賃料と低額な本件賃貸借契約の賃料との差額分の蓄積により、上記の対価を収受したものと評価することができ、その結果、本件増額請求がされた時点では、上記特殊事情が消滅していたものと認めることができるため、賃料の増額を認めた事例(東京地裁平成27年2月4日)

 

などがあります。

 

以上に掲げた事例以外でも、当事者の個人的な事情であっても、当事者が当初の賃料額決定の際にこれを考慮し、賃料額決定の重要な要素となったもの(東京地裁平成29年3月27日判決参照)であれば、事情に変更があった場合は賃料の増減額が認められることがあるものと解されます。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

 

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日本橋中央法律事務所 弁護士

2005年弁護士登録、東京弁護士会所属。2005年から2011年に片岡総合法律事務所、2011年から2016年に野田総合法律事務所(パートナー弁護士)を経て、2016年に日本橋中央法律事務所を開設して現在に至る。特に、金融に関わる法務、不動産に関わる法務及び信託に関わる法務を得意にしている。

《日本橋中央法律事務所》
ウェブサイト:http://nihonbashi-chuo.com/
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著者紹介

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