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サブリース契約は「賃貸借契約」も内包している
サブリース契約は、「所有者がサブリース業者に対して建物または居室を使用収益させ、その対価として賃料を支払う」という内容から、建物の賃貸借契約の法的性質を有していると解釈されます。
そのため「借地借家法」が適用され、同法32条(借賃増減請求権)の規定も適用されます(最判平成15年10月21日判決など)。それにより、サブリースにおける賃料の減額、または増額がどのような場合に認められるのか、その点がよく問題となります。
借地借家法32条「建物の借賃が不相当となったとき」
そもそも借地借家法32条は、建物の借賃が、以下の①から③までのいずれかに該当し、それが不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、将来に向かって借賃の増額または減額を請求することができる旨を規定したものです。
②建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、
③近傍同種の建物の借賃に比較して、
不相当になったとき。
建物の借賃が「不相当となったとき」は、裁判所が(a)差額配分法、(b)利回り法、(c)スライド法、(d)賃貸事例比較法といった方法を用い、それらを組み合わせて算出された試算賃料に加え、契約の経緯等の諸事情を斟酌して決定する方法で認定しています(差額配分法、利回り法などについての詳細な説明は、noteの記事、『地代等の増減額請求』を参照)。
加えて、上記③の「近傍同種の建物の借賃に比較して」という要件については、近隣建物の賃料相場まで減額が認められるというような単純なものではないことにも留意が必要です(noteの記事、『「近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」(借地借家法32条1項)の解釈』を参照)。
ただしサブリース契約は、典型的な建物の賃貸借契約とは異なり、(ⅰ)所有者とサブリース業者の共同事業的な側面(例えば、土地を保有している所有者が、サブリース業者から建設協力金などの提供及び金融機関からの借入れを受けて建物を建設し、サブリース業者が賃借人となって、金融機関からの月々の返済金以上の家賃額を支払う方式などがある。)を有していたり、(ⅱ)家賃収入の標準化を図る役割を果たすために締結されている場合(例えば、サブリース業者が賃借人となることによって、転借賃料と賃借料の差額をサブリース会社が収益として得る代わりに、家賃の滞納や空室が発生した場合であっても、そのリスクをサブリース業者が負担する方式など)などが多くあります。
そのため、最高裁の平成15年10月21日判決(共同事業的な要素があったサブリース契約の事案)では、
「この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度等)、第一審被告の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、第一審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。」
と判示しています。
つまり、①近傍同種の建物の賃料相場との乖離の有無や程度等(例えば、銀行借入金の返済額などを考慮して当初からサブリース賃料が近隣相場よりも高額であったというような事情があるかどうか)、②サブリース業者の転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、③サブリース業者が差し入れた敷金、④所有者の銀行借入金の返済予定に関わる事情なども十分に考慮すべきとしています。
以上のとおり、サブリースにおける賃料の減額または増額は、サブリース契約締結時の諸般の事情等を総合的に考慮する必要があり、近隣同種の建物の借賃の相場程度にまで直ちに賃料減額が認められるといった単純な問題ではないのです。
※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
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