【関連記事】賃貸物件の立ち退き問題…「老朽化に伴う耐震補強工事」が正当事由にならないケース【弁護士が解説】
老親亡きあと、使途不明金の発覚で相続人同士が紛争に
高齢となった親のために、同居の親族が預貯金等の管理を行っていたところ、親が亡くなったあとに、引き出された預貯金等の使途不明金が発覚…。そのお金の使い道を巡り、相続人間で紛争になることがあります。
この紛争は「不当利得に基づく利得返還請求(又は不法行為に基づく損害賠償請求)」として、地方裁判所等(家庭裁判所ではなく)で民事事件として取り扱われることが多いのですが、立証責任をどちら側のものとするかが、訴訟の結果に大きな影響を与えることになります。
まず、不当利得返還請求による場合、引き出された預貯金等に、「法律上の原因がない」ことが要件となりますが、最高裁昭和59年12月21日判決を根拠に、一般的には、「法律上の原因がないことの立証責任」は、請求者(原告)が負うと主張されることが多くあります(※1)。
※1 ただし、「最二小判昭和59・12・21は、前記したとおりの特殊な事案であって、裁判集に登載されている裁判要旨も、この点を考慮したためか、『不当利得返還債務の弁済として給付をした者が、民法703条に基づいてその返還を請求する場合には、同条所定の『法律上ノ原因ナクシテ』についての主張・立証責任を負う』というような限定した表現になっていて、不当利得返還請求が問題となる場合に一般化して法律上の原因の不存在を主張・立証すべきであるという表現になっていない」(滝澤孝臣「不当利得法の実務」417頁)という見解もある。
しかし、預貯金の管理を同居の親族が行っている以上、その使途を最もよく知る人物が、立証責任を理由に「引き出された預貯金の使途を明らかにしない」ことを許すと、衡平の観点から不当となる場合もあり得ます。
このような事案の「法律上の原因」とは、同居の親族が預貯金等の引出権限を有していたかどうかという点にあり、引出権限の有無は、「老親と同居の親族との間の合意内容」「引き出した現金の使途」「親の生活状況や、その他の事情」を間接事実として総合的に考慮・判断せざるを得ないため、法的な価値判断を要する「評価的要件」であると解されます。
そしてこの「評価的要件」を基礎づける間接事実の立証責任がどちらにあるのかは、上記最高裁の射程の範囲外といわざるを得ず、「この種の訴訟類型は、裁判実務上比較的よく見受けられるものであるにもかかわらず、最終的には結論が事実認定に帰着することになるためか、必ずしも文献が豊富とはいえず、その要件事実や主張立証責任の帰属などについて自明とはいえない部分が多い。」とされています(※2)。
※2 名古屋地方裁判所民事プラクティス検討委員会 第3分科会「被相続人の生前に引き出された預貯金等」(判例タイムズ1414号)74頁
「引出者」に一定の説明責任を認める傾向
筆者が考えるに、同居の親族は老親の預貯金を管理しており、その使途を最もよく把握できる立場にあること、また、そこには、準委任契約(民法656条)又は事務管理(民法697条)の関係が成立しているものと推測されますから、いずれの場合も本人への報告義務がある(民法645条、701条)ことからすれば、一定程度は、資金使途を訴訟上明らかにすべき義務、すなわち、ある程度の立証責任を引出者(被告)が負っているものと解釈すべきではないでしょうか。
なお、実際の裁判実務においても、
「現実の訴訟のあり方としては、引出権限の内容や発生原因事実について引出者側にその説明を求めた上で、請求者側の反証も踏まえて、引出者側の説明に合理性があるか否かによって引出権限の存否を判断するという形になることが多い」(前掲注2・77頁)、
「被告が預貯金を引き出したという場合、その使途を最もよく知るのは被告のはずであるから、訴訟物の構成や主張立証責任の所在にかかわらず、被告において使途を可能な限り明らかにすべきであるとの点には、ほぼ異論がない」(同88頁)、
「被告としては、具体的な財産管理の在り方を明らかにし、自らが一定範囲で授権を受けていたことを基礎付ける事情をできる限り詳らかにすることで、そのような包括的委任があったとしても不自然ではないとの心証を裁判所に抱かせる努力をすべきであろう」(同86頁)
などとされており、それを立証責任と呼ぶかどうかは別にして、引出者に一定の説明責任を認めているようです。
なお、裁判例においては、
「通帳・印鑑やキャッシュカードを管理していた実態が存在する場合には、より一層出金した現金の使途の状況を把握できてしかるべき立場にある」
とした上で、
「被告が亡きAの預貯金を管理する立場にあったと認められる場合には、被告の側から出金の経緯や使途に関する相応の合理的な説明を伴う具体的な反証がない限り、被告が当該出金額を法律上の原因なく利得して亡きAに損失を与えたと推認するのが相当である。」(東京地裁令和2年10月22日判決)
なども存在します。なお、夫婦間においても本件と同様の問題が起こることがある点には注意が必要です。
山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士
富裕層だけが知っている資産防衛術のトレンドをお届け!
>>カメハメハ倶楽部<<
カメハメハ倶楽部セミナー・イベント
【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?
【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは
【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討
【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成
【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える