(※写真はイメージです/PIXTA)

アパートやマンションのサブリース契約は、サブリース会社からオーナーへの一方的な契約解除が頻出して社会問題化し、ついには新法が制定されました。では、不動産オーナー側がサブリース会社に契約解除を望む場合はどうでしょうか。実は、契約内容の法的解釈により、オーナー側に高額な立ち退き料が請求される場合があります。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が専門家の見地から詳しく解説します。

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サブリース契約の解約と「正当事由」の関係性

強引な勧誘や不当な契約が耳目を集めていた「サブリース」の問題ですが、不良業者の排除や業界の健全な発展を目的に、2020年には「サブリース新法」が公布されるなど、新たな動きが見えてきました。

 

とはいえ、不動産オーナーが留意すべき点もいくつか残されています。そのひとつが、サブリース契約の解約・拒絶(以下「更新拒絶等」といいます)の問題です。サブリース契約であっても、更新の中止や解消には「正当事由(借地借家法28条、下記参照)」が必要となるケースが存在し、その場合、正当事由が認められない限り、すぐさま契約終了にはできないのです。

 

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 

不動産オーナーがサブリース契約の解約・拒絶をする際に正当事由が必要となるのか、もし必要だとしたら、どのようなケースで正当事由が認められるのか等を見ていきましょう。

そのサブリース、賃貸借契約か、それとも委任契約か?

一般的にサブリース契約は、「建物所有者から賃貸建物を借り上げ、入居者に転貸(また貸し)する契約」をいいますが、その法的性質について、裁判所は、サブリース契約の契約書の文言などを踏まえ、「建物を使用収益させ、その対価としての賃料を支払う」という合意内容であることを理由に、賃貸借契約(民法601条)と評価する事例が多く存在します(最判H15.10.21、札幌地判H21.4.22、東京地判H25.3.21ほか)。

 

しかし、サブリース契約のなかに、

 

①収納賃料等から管理料等を差し引いた残額の一定割合を支払う旨、転貸による収益賃料がない物件に関しては賃料を支払わなくてよい旨の約定があることから、賃借人(サブリース事業者)が空室リスクを負っていない

 

②3カ月の猶予期間を置けば賃貸人からの一方的な解約が認められる条項がある

 

③競売・任意売却等で所有権移転された貸室については、その都度、サブリース契約が当然に消滅する旨の条項がある

 

等の内容があることを踏まえ、サブリース契約が「建物の賃貸借」ではなく、「建物管理及び賃料収受の委託を内容とする委任契約」である、と評価した裁判例(東京地判H26.5.29)も存在します。

 

したがって、個別事情にもよりますが、サブリース事業者が空室リスクを負わないサブリース契約等は、契約の実質から、借地借家法28条の適用を受けない「委任契約」と評価される可能性があり得るものと考えます。例えば、不動産の証券化スキームにおいて、パス・スルー型のサブリース契約を締結することがありますが、これらの契約の法的な性質については、個別事情に応じた慎重な検討が必要だといえます。

賃貸借契約なら、契約解除に「正当事由」が必要になる

次に、上記のような事情も存在せずに、サブリース契約が「賃貸借契約」と評価された場合には、借地借家法28条(更新拒絶等の要件)の適用を受けることになりますので、サブリース契約の解約等にあたっては、「正当事由」の存在が必要となります。

 

正当事由を判断するにあたっては、

 

①賃貸人の建物使用の必要性

②賃借人の建物使用の必要性

③賃貸借に関する従前の経過

④建物の利用状況及び現況

⑤財産上の給付(立退料など)の申し出の有無

 

などが考慮されます。

 

そして、転借人がいる場合、正当事由の判断にあたって、転貸料等の収入を得ているサブリース事業者である「賃借人」の事情だけではなく、実際に占有して使用している「転借人」の事情についても、借家人側の事情として斟酌すべきという考え方ができます(東京地判H24.1.20など参照)。

 

そのため、転借人の利益及びサブリース事業者の利益のいずれの面からも、建物使用の必要性が認められるため、正当事由を補完するための立退料は一定の金額とならざるを得ないと考えられるのです。

 

転借人がいない場合は、サブリース事業者の利益のみを借家人側の事情として勘案すればよいことになりますが、サブリース事業者自身による建物使用を想定しておらず、もっぱら転貸料収入を得ることを目的としている場合には、「サブリース事業者の利益=該当の建物を転貸して経済的利益を得ること」となります。ここでの「経済的利益」を具体的にいうと「賃料と転貸料の差額」ですから、正当事由である「補完事由」としての立退料の算定として、生じる差額の一定期間分を基準にすべきものと考えられます。

 

さらに、サブリース契約の契約書に「賃貸人側から一定期間前に通知を行えば期限前解約ができる」旨の条項がある場合は、「終了についての特別な合意」として、正当事由のひとつの要因として評価することができると考えられます。なお裁判例でも、賃貸人の要求があれば建物を明け渡すなどの約定がある場合には、正当事由の一要因として認められているものがあります。

 

それ以外にも、サブリース事業者がサブリース契約の締結にあたり、サブリース契約の更新拒絶等で正当事由が必要となることについて、異なる内容の説明を行った、あるいは十分な説明を行わなかったことは、当然ながら個別事情によるものの、正当事由の判断要素のひとつである「賃貸借に関する従前の経過」として、十分に考慮されるべき事情になり得るといえます。

 

上記で述べた、契約書に「賃貸人側から一定期間前に通知を行えば期限前解約ができる」旨の条項がある場合、または、業者が契約時にサブリース契約の更新拒絶等で正当事由が必要となることについて異なる内容説明を行った、あるいは十分な説明を行わなかったとの事情は、正当事由の補完事由としての立退料の算定においても、賃貸人側に有利な事情として斟酌される可能性が十分にあると考えられます。

 

※本記事は、日本橋中央法律事務所の「note」より転載・再編集したものです。

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所
弁護士

 

 

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