衆院選で有権者が求めたもの:現実的な改革
国内では第49回衆院選が終わりました。株式市場の初期反応は、実務遂行経験が長い与党第1党の「絶対安定多数」に安ど感が広がっているように見えます。一部の事業主や家計への給付金支給や『GoToトラベル』を含む大型経済対策への期待もあるかもしれません。
衆院選で有権者が求めたものは、日本株式市場の投資家が求めたものと一致しているように思えます。ひとことで言えば「現実的な改革」です。
ご存じのとおり、今回の衆院選では、与党を含む多くの政党が「分配」を強調しました(→確かに、第1党は、「分配」と「成長」を公約に掲げましたが、「成長」を強調したのは終盤戦でした)。分配とは、既存のシステムから生み出される・生み出されたものの分配です。
振り返れば、前首相の辞任後に株価は急上昇しました。しかし、総裁選では、党員・党友票の多くを得た「改革」を強調する候補が国会議員多数の決選投票で敗れ、1.「守旧」の色がにじみ出て、2.「分配」を重視する新総裁が誕生し、株式市場は調整しました。
後知恵で言えば、このときすでに、「一般有権者・投資家連合」と「政治の世界の中だけで最適化する人たち」との違いが見えていたのかもしれません。
衆院選では「改革」を封印した与党や野党は議席を減らし、与野党を問わず「ベテラン議員」の多くが小選挙区で敗れ、「改革」を強調する政党は議席を増やし、「改革」を強調して総裁選で敗れた「冷や飯」の与党議員たちはそれぞれの選挙区で圧倒的多数の票を得ました。
日本の有権者が求めるものは、「現実的な改革」であるように見え、それが良いかどうかの評価、正しいかどうかの価値観は別として、それは、日本株式市場の投資家が求めるものに一致しているように思えます。
そうした有権者の声が、特に経済政策に反映されれば、日本株式市場は底上げされる可能性があります。実際、今回の衆院選では、小選挙区での勝利にせよ比例での復活にせよ、「怖さ」を感じた当選議員が少なくなかったように思えます。
言い換えれば、今回の選挙結果は、1.実務遂行経験が長い与党に多数を与えつつも、2.現実的な改革を求めて恐怖も与えるという、有権者がとりうる選択肢の中では、株式市場にとっての「ベスト・チョイス」だったかもしれません。
あるいは、「いや、そうは言っても、規制緩和や行財政改革には相当の時間がかかりそうだ」ということであれば、日本株式市場では、内外の得意分野に特化して成長力を証明できる企業のみに資金を投じることが肝要です。
もちろん、仮に我々が「成長」を欲するならば、我々自身に対して、「政治の世界の中だけで最適化する人たち」のように、「自分も自分が働く企業の中だけで最適化していないか」を問わなくてはならないのでしょう。それが、生産性の停滞につながっているのかもしれません。
重見 吉徳
フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
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