「タバコと無縁に生きているのに、膀胱がん」
がん予防では禁煙がとても重要だといわれています。中川さんによると、喫煙者は膀胱がんになる確率が2倍になり、肺がんになる確率は5倍になるそうです。それはデータの解釈としては確かでしょう。
では1日1箱(20本)タバコを吸う人と、3日で1箱吸う人ではどうなのか。20歳からタバコを吸い始め、40歳でやめて、今60歳の人はどうなのか。タバコとの付き合いは千差万別です。それを1つに丸めて、全体の数値を出して確率を提示しているのが統計データです。
中川さんはタバコを吸わないのに、膀胱がんになっています。タバコと無縁に生きている人でも、がんにかかることがあるのです。
では医療における統計を否定すればよいのかというと、そんなことは不可能です。そう願ったとしても、過去の医療に戻ることはありません。現在、病院に行くというのは、この医療システムに完全に取り込まれてしまうことなのです。これが2020年6月に、病院に行くべきかどうかで悩んだ理由です。
養老 孟司
東京大学名誉教授