養老孟司「タバコを吸っていなくてもがんになる」ことを考える

東京大学名誉教授で、執筆活動も盛んな医学博士・養老孟司氏。「病院嫌い」の先生は、コロナ禍の2020年6月、悩みながらも実に26年ぶりに東大病院を受診し、中川医師により心筋梗塞を発見されました。しかし病院嫌いは変わらないようです。 ※本連載は、書籍『養老先生、病院へ行く』(エクスナレッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

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喫煙とがんの因果関係は「実証」されているが…

私はタバコを吸っていますが、喫煙者はがんになりやすいというデータがあります。57歳のときに肺がんが疑われたことがありますが、当時はタバコを吸っていたので、検査の結果が出るまで、その可能性はあると覚悟していました。結局、肺がんではありませんでした。

 

がんになる要因は1つではありません。発症する現実の仕組みは複雑です。にもかかわらず、がんを予防するためには複雑化を取り払い、単純化して因果関係を絞り込んでいるように思われます。

 

統計で得られたデータというのは、そのように使うことも可能ですから、場合によっては、原因が1つに特定することもできます。

 

人間を喫煙者と非喫煙者に分けて、どちらががんの発症率が高いかどうかを調べるとします。その結果、タバコを吸う人のほうががんになる確率が高いことがわかります。これによって、喫煙とがんの因果関係が「実証」されるわけです。

 

統計というのは、個々の症例の差異を平均化して、数字として取り出せるところだけに着目してデータ化します。逆にいえば、統計においては、差異は「ないもの」として無視しなければなりません。

 

差異というのはノイズです。統計を重視する医療の中にいると、データから読み取れる自分が本当の自分で、自分の身体はノイズであるということになってしまうのです。

 

本来、医療は身体を持った人間をケアし、キュア(治療)する営みです。それなのに、患者の身体がノイズだというのは、おかしなことです。

 

統計は事実を抽象化して、その意味を論じるための手段にすぎません。統計そのものに罪があるわけではありませんが、要は使い方の問題なのです。

東京大学名誉教授 医学博士
解剖学者

1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。

95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。

著書に、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、447万部のベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)のほか多数。

著者紹介

東京大学大学院 医学系研究科 特任教授 医学博士

1960年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部放射線医学教室入局。

社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現在、東京大学大学院医学系研究科特任教授。2003年〜2014年、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。

共・著書に『医者にがんと言われたら最初に読む本』(エクスナレッジ)多数。

著者紹介

連載養老先生、病院へ行く

養老先生、病院へ行く

養老先生、病院へ行く

養老 孟司
中川 恵一

エクスナレッジ

あの「あの病院嫌い」の養老先生が入院した!? 自身の大病、そして愛猫「まる」の死に直面した養老先生が、「医療」や「老い」「大切な存在の死」とどう向き合うかなど今の時代のニーズに合致しつつも普遍的かつ多様な書籍で…

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