(※写真はイメージです/PIXTA)

東京都内ではいま、惜しまれつつその役割を終える築古ビルが増えています。いずれも戦後の高度成長期にあたる1960年代~70年代に建てられた築60年前後の建物です。なかには取り壊すには惜しい、語るべき歴史が詰まった名建築もあり、解体を反対する声も上がっています。姿を消していく「戦後の名建築ビル」の生い立ちと、その行く末を紹介します。

中銀カプセルタワービル:歴史的日本メタボリズム建築

 

「中銀カプセルタワービル」は1972年に建設された分譲マンションです。

 

設計者の黒川紀章氏は日本におけるメタボリズム建築の第一人者であり、同ビルはその代表作になります。基本コンセプトは「都心で働くビジネスマンのためのセカンドハウス」で、約10m2とコンパクトな室内に、電化製品や家具、オーディオ、TV、電話といった生活に必要な最小限のアイテムが装備されています。

 

そして最も特徴的なのが、各住戸がカプセル状に独立しており、カプセル毎に取り外しが可能な設計になっている点です。しかし、築49年を経た現在まで一戸も取り外されたことはありません。

 

その元凶は給・排水配管です。床・壁・天井で構成されるカプセル部分は取り外せても、縦に繋がる配管の撤去・回復が困難なため、カプセルの取り外し・交換が容易にできないのです。同ビルの土地は借地権のため、建物の維持管理ができなくなった暁には更地にして地主へ返さなければなりません。新築当初は「カプセルを新しいものに交換すれば土地の返還は半永久的に不要」と考えていたのでしょう。配管の問題は近年になって顕著になったものです。

 

解体の話は、土地所有者が変わってから出始めたと聞いています。解体工事は2022年から本格化する予定ですが、共用部の設備撤去は既にはじめられているようです。しかし、建物存続を望むカプセルのオーナー数人は未だ居住・使用を続けています。

 

オーナーたちが先日立ち上げたクラウドファンディングでは想定以上の支援が集まり、建物解体後のカプセルは美術館など公共施設へ寄贈されることになりました。移設されたカプセルは展示だけでなく、宿泊体験施設としての利用も検討されているということです。

ホテルオークラ東京:「一万八千坪の芸術」の再現

 

「ホテルオークラ東京」は、明治から昭和の日本経済をけん引した大倉財閥の二代目・大倉喜七郎氏が1962年に開業しました。

 

戦後日本の国際化を見据え、「日本らしいホテルをつくりたい」というコンセプトのもと建ち上がった建物は、優美かつ奥ゆかしさを兼ね備えた「侘び・寂び」の世界そのもの。

 

その象徴的な意匠は、東宮御所や帝国劇場を手掛けた建築家・谷口吉郎氏設計によるメインロビーに表れます。古墳時代の首飾りを模した「切子玉形」の照明(通称「オークラ・ランターン」)が天空を舞い、ロビーに陽光を招き入れるガラスウォールには、古式ゆかしい麻の葉文様の障子戸が取り付けられています。

 

これら日本の伝統美が盛り込まれた空間演出に多くの海外VIPが魅了され、いつしか同ホテルは「一万八千坪の芸術」と呼ばれるようになります。しかし開業から52年目となる2014年、同ホテルは建物の老朽化を理由に建て替えを決定。その発表を受けて、ホテルの常客であった海外著名人から保存を望む声が多数上がりました。

 

2019年春、ホテルオークラ東京改め「The Okura Tokyo」は3年半の解体・建設工事を経て再スタートを果たしました。世界各国にいるオークラファンからの要望に応え、新メインロビーにはオークラ・ランターンや麻の葉文様の組子障子を配した、旧ホテルの空間と見まがうような設えが再現されました。この演出を手掛けたのが、初代メインロビー設計者である谷口吉郎氏の子息・谷口吉生氏であることも興味深いエピソードです。

目新しさを好む国民性も、建築の寿命を縮める一因に?

 

海外では築100年以上のビルディングなど当たり前のように存続していますが、日本では長くて50~60年、一般的には30~40年程度で解体・新築されてしまいます。

 

銀行融資や税申告時の減価償却に関わる耐用年数であったり、島国ならではの天災発生頻度の高さ、そこからくる建築基準法の厳しさが影響しているのかもしれませんが、それよりなにより日本人の「ガジェット好き」が日本建築の寿命を縮める最大の原因かもしれません。

 

 

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    ※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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