「米国の6割程度しかない」日本の労働生産性…低すぎる原因は「人材の能力差」ではない (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の労働生産性が低いといわれて、すでに半世紀が過ぎました。『労働生産性の国際比較2020』によれば、2019年の一人あたりの労働生産性(就業者が一人で1年間に生みだす付加価値額)は、米国が13万6051ドル(1381万円)であるのに対し、日本は8万1183ドル(824万円)。日本の労働生産性は米国の6割程度だということがわかります。なぜ日本の労働生産性はいっこうに改善されないのでしょうか? 本質的な原因に迫ります。

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「パフォーマンス向上」こそ労働生産性アップのカギ

これまで日本企業では、パフォーマンスの低さを時間で補ってきました。時間外労働の上限はここ数十年でずいぶん減ったとはいえ、サービス残業も実際には多く、管理職に至っては実質的に上限時間がありません。しかし「働き方改革」が叫ばれるなか、いつまでもそんなことを続けていられません。さらにいえば、パフォーマンスを一時的にせよ、下げることにもつながるのです。

 

これからの日本企業は、労働時間に頼らずに生産性を上げなければなりません。能力開発は今までもやってきましたし、時間は減りこそすれ増えることは考えにくい方向にあるので、あとはパフォーマンス向上だけです。そのうえで、パフォーマンスを向上する方法について知り、実践していかなければなりません。

 

言い換えると、データに基づいた科学的な人事(HR)に取り組まなければならないということです。

そもそも「科学的」とは何か?満たすべき3つの条件

科学的という言葉を辞書で調べると、「考え方や行動のしかたが、論理的、実証的で、系統立っているさま」(デジタル大辞泉)とあります。だいたいどの辞書を見ても同様の定義ですが、このなかでも「実証的」という部分が重要だと考えます。実証的とはどういうことか、これも辞書で調べると、「思考だけでなく、体験に基づく事実などによって結論づけられるさま」とあります。事実とはデータのことと言い換えられます。データに基づいて仮説を立て、その仮説を検証していく作業を積み重ねることが科学的といえることなのだと思います。

 

科学的であるということは「反証可能」であるともいえます。これは宗教との対比でよくいわれることです。宗教においては、基本的に神様や教祖の言うことは絶対です。それに逆らうことは許されません。しかし科学であれば、定説になっている学説であっても反例が出てくれば否定されます。アインシュタインの相対性理論の登場でニュートン力学が否定されたのがその例です。ここでは、自分の考えや理論が絶対に正しいと思い込むのではなく、否定的な実例が出てきたら、理論を修正し、進化させていく態度が求められるという意味だととらえます。

 

もう一つ重要なことは、「再現性」があるということです。同じ手順を正しく踏めば、誰がやっても同じ結果が得られることも、科学的であることの重要な条件です。STAP細胞が結局否定されたのは、発見者以外はもちろん、発見者本人も再現性を証明できなかったからです。

 

まとめると、科学的とは次の3つが満たされることです。

 

①データに基づく

データに基づいて仮説・検証を繰り返して科学的事実に迫るという行為を積み重ねる

 

②反証可能

否定的な実例が出てきた際には、論理を見直して進化させていく

 

③再現性がある

同じ手順を正しく踏めば、誰がやっても同じ結果が得られる

人事に「科学的」を当てはめると…

人事を科学的に考えていくうえで、まず「データに基づく」ということについて考えてみます。

 

これまでほとんどの日本企業は、人事担当者や上司の勘と経験に基づいた人事評価をしてきました。もちろん売上目標に対する実績値など、数字で評価される部分はありましたが、それらの数字だけで評価する「いき過ぎた実績主義」が企業を疲弊させるということが1990年代から2000年代にかけて分かってきました。

 

その結果、実績だけの評価ではダメだということで、実績とパフォーマンスの両方で評価しようという気運が生まれました。そこでパフォーマンスの高い人材の行動様式であるコンピテンシーを定義し、それによって評価しようという取り組みが多くの企業で見られるようになりました。

 

しかしコンピテンシーは、どうしても定性的で抽象的なものにならざるを得ません。コンピテンシーによる評価は結局、上司や人事担当者の勘と経験に基づくものになっていったのです。

 

コンピテンシーに価値がないわけではなく、行動指針としては今でも重要性があります。

 

しかし大切なことは、どのような人がハイパフォーマーの行動様式で動くことができるのかを客観的なデータで評価することです。例えば「自分の意志で決断し、結果に責任を負う」というコンピテンシーのレベルが高い人は、どういう数値的な属性をもっているかを明らかにし、その数値データで評価するということが必要になります。

 

次に「反証可能」について、反証可能とは、これまでの理論で説明できないデータが出てきたら、それで理論を見直し、進化させていくことです。これは勘と経験による「思い込み」で決めつけることと真逆な態度を取るということです。「データに基づく」ということとも共通しています。

 

最後に「再現可能」ですが、これは、業界や会社が変わったら成立しない方法は採用しないということです。どの業界、どの会社でも同じ方法が使えることが科学的な人事の条件です。

 

それに共通するのは、人事担当者や上司の能力とは関係がないということです。データに基づいて評価し、それに基づいて人材配置を検討するということなので、理由を求められても説明可能であり、透明性も高くなります。

 

しかし本稿で言いたいのは、公平な人事ではありません。結果として公平な人事になりますが、目的はあくまで人材のパフォーマンスを最大限に引き出し、一人ひとりの生産性(一人が1年間に生みだす付加価値額)を高め、会社全体でより多くの付加価値を生みだすことです。

 

それに加えて、昨今では「働き方改革」で労働時間の短縮が求められ、コロナ禍でリモートワーク環境が広く普及しました。こうした条件下でも、人材のパフォーマンスが高められることを目指しています。

日米に「約1.7倍の生産性格差」をもたらした“考え方”

『労働生産性の国際比較2020』によれば、2019年の日本の一人あたりの労働生産性(就業者が一人で1年間に生みだす付加価値額)は8万1183ドル(824万円)でOECD加盟国中26位です。それに対して米国は13万6051ドル(1381万円)で同3位となっています。およそ1.7倍の開きがあります。

 

このような差は、単に就業者の能力の差だけでつくものではありません。社会や企業における生産性に関する考え方に大きな違いがあると考えられます。実際、米国と日本との生産性に関する考え方は大きく異なります。

■「残業してでも全部やりきる姿勢」は優先順位付けが下手な証

例えば米国のビジネスパーソンには生産性を高めようという強い意志を感じることがたびたびあります。やるべきことの優先順位を明確にせよとは日本のビジネスパーソンの多くもいいます。しかし日本人の多くは優先順位を付けるのがそもそも苦手で、結局すべてのタスクを、残業してでもやりきってしまうことが多いと感じます。その点米国のビジネスパーソンは優先順位を明確にしますし、優先順位の低いことは大胆に割り切ってしまいます。

 

説明の仕方に関しても、常に結論を先に言うように心掛けています。ダラダラと説明することで、話すほうと聞くほうの双方の時間を奪うようなことはタブーとされます。誤解が生じる余地をそぎ落とす単刀直入なコミュニケーションが徹底されています。要するにムダな時間は一切使わないという考え方が徹底しているのです。

 

日本の製造現場の成功体験が足かせになっている部分もあるかもしれません。日本の製造業の効率性は長らく他国を圧倒してきました。そのため日本では生産性が「工場のオペレーションの効率化」であるかのようにとらえられてきました。そのため工場以外の分野、例えばオフィスや店舗などにおける生産性向上については、あまり関心をもたれてきませんでした。その結果、製造業については海外と比較してもそれほど見劣りはしませんが、そのほかの産業については大きく見劣りしています。

 

さらにいえば、製造業でも工場の生産性が高くてもオフィス等の生産性がそれほど高くない分、他の先進国にトータルでは勝てないという状況になっています。

■米国は、経営判断も人材育成も「生産性をいかに高めるか」が主軸

経営判断においても、欧米企業の多くは、事業ポートフォリオや商品・サービスの取捨選択の際に付加価値の低いものは早めに切り捨て、高い付加価値が見込める分野に資源を集中していくということを徹底します。その結果、企業全体の生産性が高まることになります。一方で日本企業は、不採算事業をなかなか切り離すことができません。

 

米国企業の経営判断には、経営資源を生産性の高い分野に集中させて企業価値を高めるという基本的な考え方があります。その考え方を突き詰めると、企業価値の指標として時価総額が重要視されることになります。しかし日本では時価総額よりも売上や従業員数、資本金など会社の規模が重視される傾向があります。

 

人材育成に関しても大きな違いがあります。米国では、「成長する=生産性を上げる」ことと考えられています。つまり成長するとは、新たな知識や技術を習得することではなく、それらを駆使して仕事の生産性を上げることができたかどうかということであり、それがすべてなのです。

日米の生産性格差を埋めるには「認識の改革」が必要

このように生産性に関する理解や取り組みのレベルは日米で大きく異なっています。日本企業が米国企業と同じスピードで成長し競い合うためには、生産性に関する認識を、根底からそして早急に変える必要があるのです。

 

日本でも長時間労働は企業にとっても社会にとっても問題だと認識されるようになりました。「働き方改革」でも課題に挙げられています。しかし解くべき課題は「長時間労働」ではなく、働いている人の生産性が低いまま放置されていることです。売上を伸ばす方法として、社員をより長く働かせること以外の手段を思いつかない経営者、あるいは長時間労働以外の方法では付加価値を生みだせない古いビジネスモデルが大きな問題なのです。

 

仕事ができる人とは生産性の高い人のことであり、成長するとは生産性が高くなること─これがポイントです。人材育成の目的とは個々人の生産性を高めるための支援をすることであり、成長したかどうかはその人が生みだした付加価値で測られるべきものなのです。

 

そしてこの考え方に基づく人材育成に取り組んでいかなければ、日米の生産性の差は永久に埋まりません。ただし「支援をする」といっても、経験と勘に基づいた支援ではこれまでの繰り返しとなります。データに基づいた科学的な支援が、今必要とされているのです。

 

 

梅本 哲

株式会社医療産業研究所 代表取締役

 

 

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株式会社医療産業研究所 代表取締役

北海道生まれ。大学卒業後、医療関連メーカーに入社。市場調査・商品企画・事業計画・販売計画策定・新商品の市場導入など、マーケティングを初歩から一通り経験したのちに退社。

1986年に医療分野における調査・コンサルティングに特化した専門企業として、現在の医療産業研究所を共同設立し、1994年より現職。設立以来35年にわたり、中央官庁、地方自治体、公益法人、大学等教育機関、官民研究機関、医療機関・団体、民間企業等、幅広いクライアントから、保健・医療・福祉に関する多様なテーマでの調査依頼を受託してきた。2003年に、筑波大学と産学協同で開発したストレスチェックツールを基軸に、メンタルヘルス事業へ参入。2015年の労働者へのストレスチェック義務化による市場拡大を経て、現在に至る。

近年は、医療関連分野の調査業務で培った専門知識・データ解析技術を駆使して、企業の生産性向上を実現させるための提案を行っている。

著者紹介

連載どんな企業でも生産性アップ!ストレスチェックを活かした「科学的人事」

※本連載は、梅本哲氏の著書『サイエンスドリブン』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

梅本 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

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