(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックが勝ち残っていくためには、優秀な人材が必要です。しかし歯科医師の採用は容易ではなく、さらには引き抜きや引き留め工作などの駆け引きも珍しくありません。

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独立、開業、分院長…面接の時点で「最終目標」を質問

面接においては、その人の最終目標をじっくりと話し合います。基本的にはその人が将来的にやりたいことを叶えてあげたいと思うからです。だから将来的な望みは何かを最初にその人に聞いてしまうのです。ドクターであれば、どういう歯医者になりたいのか、どういう目標があるのか。開業したいのか、組織の一員として出世したいのか、親の歯科医院を継承したいのか。そういう目標がない人に対しては、「しっかりと自分の将来像は考えたほうがいい」と諭します。

 

どう専門性を磨くかということもありますが、むしろもっと大きく、10年後、20年後になっていたい姿を聞くようにしています。

 

その絵姿ですが、独立して開業したい、勤務医として経験を積んで出世して分院長をやりたい、親のところに戻って家業を継ぎたいという、だいたい、この3パターンのいずれかに集約されると思います。とはいえ、まだそこに至る道を明確にスケジューリングできている人は少ないので、何年でそこまで行きたいのかという目標をまず立て、そこまでにいつ何をすべきかを一緒に考えます。

 

例えば5年後に親の歯科医院に戻りたいとします。そのためには、2年後から3年間、分院長を経験して、そこから実家に戻るなどといった、その人なりのキャリアパスを最初に考えます。

 

分院長まで育った人材は「結局残ってくれる人」が大半

また、後に役立つために分院の場所選び、内装、機材選びなど、また開院前のすべての打ち合わせやスタッフ面接は一緒に行います。

 

経営するには数字に詳しくなることも絶対的に必要です。実際の経理は人に任せるとしても、例えば財務諸表が読めないようでは経営力は赤信号です。だから医療会計や財務を覚えてもらう機会も提供します。その結果、優秀な人材が巣立ってしまうことになるわけですが、そこは厭いません。止める気はありません。

 

ただ、そうやって真摯に対応していると、実は結局残ってくれる人がほとんどなのです。それは、グループ内でその人がやりたいことを実現できているからだと思います。独立して、あるいは地方の親の歯科医院を継いで自分一人で頑張るよりも、ここに残るほうが夢があると思ってもらえるからだと思っています。それが吸引力です。だから、この組織が拡大や成長を止めたら、多くの人材は蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまうと思います。

 

そのためにも、時期を間違えない権限委譲が必要です。そこを躊躇うと、人材が育たないどころか、いなくなってしまうからです。

 

もっとも、分院長として誰にでも1医院を任せられるというわけではありません。小規模ですが、普通の企業でいえば、支店長になるということだからです。そのためのノウハウの伝授がまた別に必要になりますが、そこも雇うことを決めた1日目に話をします。

 

ちなみに、最初にそこまで確認するメリットは何か。正直、歯科医師を採用するのは結構大変なのです。そのため、引き抜きもあります。辞めたいと言い出したために給料をアップするといった引き留め工作を行うという話もよく聞きます。私はそうした駆け引きが嫌いなので、将来的にもそうしたストレスがないように、最初にお互いの納得ずくで、目標とそこに至るプランを決めてしまいたいのです。

最近は「勤務医として勤め上げたい派」が増加中

若い歯科医師に将来の希望を聞くと、昔は親の後を継ぐという希望が多く、開業したいという希望と合わせると全体の8割くらいを占めていたと思います。そこからどんどん開業したいという希望が多くなってきたのですが、最近は勤務医で勤め上げたいと言う人が徐々に多くなってきています。私のところに来る人の比率でいうと、今ではおよそ6割が開業(一部親の後を継ぐを含む)、そして4割が勤務医として勤め上げたいというものです。

 

勤め上げる場合の基本的な最終形は、やはり分院長です。もっと組織が多くなってくると、現場を離れた経営陣の一角を任せるという役割もあり得ると思いますが、現状では分院長です。1医院を任せる分院長と、その医院のナンバー2ではやり甲斐がまったく違いますが、性格によってはトップよりは二番手がいいという人もいます。二つのパターンに分かれるわけです。

 

ただやはり、分院長をやってみたいという人のほうが割合的には多いです。勤務医として勤め上げたい人のなかで8割5分は分院長です。そのためにも、分院を増やしていく方向で私は考えています。

 

女性のドクターは、やはり結婚や出産という将来構想があるので、分院長ではなく、二番手がいいという人が多いようです。

 

独立開業と分院長を比べたときのいちばんの違いは、後者の場合、自分が借金を背負うリスクがないということが挙げられると思います。現在の開業資金の相場は最低5000万円くらいです。これは個人にとっては大きな数字だと思います。

 

もう一つがスタッフの管理がなくなるわけではありませんが、一人で経営するのとではストレスの度合いが確実に異なります。だから、分院長を務めると、「独立はやはり辞めよう」と思う人が多いのですが、なかには「これならばやれそうだから、一人でやってみたいかな」と思う人ももちろんいます。そのことも考慮して、私は場所選びからコンセプトまで、分院長を務める者と徹底的にディスカッションをして、お金の問題はないとしても、ほぼその人が自分で開業したのと同じ経験を積めるようにしています。そしてゆくゆくは、そのまま自分で経営したいと思えば、その人に売ってしまうというパターンもありだと思っています。

 

 

河野 恭佑

医療法人社団佑健会 理事長

株式会社デンタス 代表取締役社長

 

 

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※本連載は、河野恭佑氏の著書『歯科医院革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

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河野 恭佑

幻冬舎メディアコンサルティング

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