(※写真はイメージです/PIXTA)

歯科医院の大半は、スタッフ教育にいちばん頭を悩ませているようです。とりわけ話題に上がるのは、「伸び悩んでいるスタッフが多い」という問題。筆者もまた伸び悩むスタッフを抱えていた院長の一人ですが、誰よりも試用期間の長かったスタッフは今や「院長秘書」と、驚愕の成長ぶりを見せています。一体どのような指導を行ったのでしょうか。

かつて「現場のお荷物」同然だった…院長秘書の過去

現在の秘書は、もともと歯科助手でした。試用期間がいちばん長く、通常3ヵ月のところ、8ヵ月を要しました。彼女を雇った際に10人くらいが面接に来ました。私のなかで合格者はいませんでした。

 

だから「今回の採用は辞めよう」と事務長に言ったのですが、「採用にもお金が掛かっているのでもったいない」と言い返されました。そこで考え直して、訪問診療も行っていたので、自動車の運転ができる人間にしようと決めました。運転免許をもっていたのが彼女一人でした。

 

そして彼女を雇いました。

 

しかし、車の運転以外は正直、まったく頼りになりませんでした。治療の現場で先を見越して動けないのです。むしろ邪魔になる。患者さんのことも覚えない…。何度も「もう帰れ!」と怒鳴ってしまったこともありました。そのほかのことも当然厳しく指導しました。毎日レポートを出させた時期もありました。

 

その彼女は今や私の秘書で、私のスケジュール調整や管理、資料作成、会議等の準備などを切り盛りしてくれています。長い時間をかけて一対一で教え込み、私の考えを刷り込んだ結果だと思っています。それがいい組織をつくるうえでいちばん大切なコツだと私は思っています。気脈を通じ合うようなものです。

 

当時はまだまだ小さな組織でした。無駄な人間を雇うことはできません。8ヵ月の試用期間は長いですが、そう簡単には正社員にできなかったのです。以前にあるドクターに言われたことがあります。

 

「正社員にするということは結婚するようなものだよ」と。確かにそうです。正社員にしたら、辞めさせるのもリスクです。だからこちらの覚悟も簡単ではありませんが、最低限、社員になる人間にも、ここで腰を据えてやるという心構えをもってもらうことが大事なのです。そういう気概をもてないと、単に「福利厚生もあるし給与も悪くないから正社員にしてほしい」という人間が集まってしまう。そういう人間で固まった組織に未来はないと思います。

 

一対一で向き合い続けた結果、「頼れる秘書」に進化

秘書に配置換えしたあとに、彼女に最初の頃と今とで、自身のなかにどんな変化があったのかと改めて聞いてみたことがあります。

 

すると、最初は患者さんのことが分からなくても「まあ、いいか」だったと言いました。ただアシストするだけだから「まあ、いいか」なわけです。当然、患者さんのことを理解したいなどとは思ってもいませんでした。いちばん驚かされたのは、「お弁当が出るのが魅力的だった」という一言です。

 

ところが、「先生に言われてレポートを書くと、患者さんの名前と顔を覚えられる。そのうち、この方は1週間前も来院された、その時にこういう話をしたと思い出すようになって、もう少し患者さんと話をしてみたいなと思うようになったのです。今でも道ですれ違えば挨拶をします。覚えてくれているとうれしくなります。人と向き合うのがいちばん大事で、人に興味をもたないとできない仕事なのだ」と分かりました。これを聞いて、こんなにうれしかったことはありません。まさに人を育てる醍醐味です。

「一人ひとりの人材と向き合う」とは、こういうこと

秘書になった彼女の例もあり、面接の段階からとにかく一人ひとりと向き合うようにしています。伝えたいことは、ため込まずに、すぐに伝えるようにしています。診療中のスタッフのミスを認識した場合、その場で注意をすることを心掛けています。

 

もう一つ重要なことが、「見返りは求めない」ということです。つまり、一所懸命に諭したとしても、すぐに分かってくれる、直してくれる、正してもらえるとは思わないことです。「こんなに一所懸命に話しているのに」などと思い始めたら、相手に早々に愛想を尽かされてしまいます。あくまでもじっくりと、理解して、肌で感じて、定着されるまで、繰り返します。

 

指導だけではなく、大切なスタッフですから、例えば誕生日にケーキを渡すなどもします。しかし、こうした行為はこちらが勝手にやっていることであって、これによって好かれたいなどといった見返りももちろん求めません。見返りを求めた行為にはなんの強さもないのです。

 

そして、例えばいったん激高したとしても、決してあとを引かないことも重要です。スタッフよりもむしろ自分の切り替えが大事なのです。時間外の食事会や飲み会はしない、つまり搦め手で説得や指導などもしません。そして自分の信念、コンセプトはぶれることなく言い続けます。それは全員の道しるべになります。

 

給料日は、必ず一人ひとりと面談します。とにかくコミュニケーションを取ることが大切です。コミュニケーションを取るために昼休みも有効活用しました。もちろん会議や指導ではありません。昼食をともに食べ、会話をすることにより、スタッフとの距離を縮めることができました。

 

また、人の悪口なども陰で言わないように、はっきり言い続けることも大事です。これもスタッフと一緒にいる時間を増やすことにより、知らず知らずに自分の考えを擦り込んでいくことになります。

 

いちばん大切なことは「陰口を叩くな」「情報は共有しろ」「すぐに報告しろ」と諦めないで言い続けることですが、そうさせない環境づくりも大切です。退路を断つ環境づくりが結構プラスに作用するものだと私は思っています。

 

私が一緒にいることで、プライベートの愚痴などではなく、仕事上の悩みや疑問などを共有する機会が間違いなく増えていきました。

 

 

河野 恭佑

医療法人社団佑健会 理事長

株式会社デンタス 代表取締役社長

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※本連載は、河野恭佑氏の著書『歯科医院革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

河野 恭佑

幻冬舎メディアコンサルティング

コンビニエンスストアを1万軒以上も上回る歯科診療所の施設数。 一方で少子化によって患者は年々減少し、過当競争が激化しています。 年間で1600軒もの施設が廃業し、「大廃業時代」といわれる歯科業界で生き残っていく…

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