患者満足の向上は死亡率を下げさせる
(2)患者満足とケアの技術的な側面
ケアの技術的な質は患者満足の重要な構成要素の1つであり、医師や医療スタッフの能力と高いレベルの診断、治療は、患者評価において重要視されている(Ware et al., 1977)。ケアの効果、治療の結果、提供されたサービスの結果は不可欠であり、技術的な介入の水準が高いほど、患者の満足は大きい(Marquis et al., 1983)。
我が国の患者行動研究でも、医師の技術と知識、能力の高さが患者満足に影響を与えていることが報告されている(長谷川・杉田,1993;今中,1993;杉本ほか,2018)。また、医師以外の医療スタッフの技術について、Abramowitzet al.(1987)は、看護ケアと看護師による援助、処置と治療に関する医療スタッフの説明について重要性を示している(Sitzia & Wood, 1997)。また、薬剤師、理学療法士、臨床検査技師などの医療スタッフの知識と技術は、患者満足に影響を与えていることが報告されている(杉本ほか,2018)。
(3)患者満足とアクセスや物理的環境
アクセスについての捉え方は、研究において広義に解釈されており、病院までの交通の便だけではない。アクセスとは、第1に治療を受けるための調整に関する要素であり、例えば、待ち時間、提供者との連絡の容易さを示す。第2に、物理的環境が挙げられ、治療が提供される環境の特徴を示す。
例えば、院内外での看板や表示などの合図や指示の明確性、整然とした器具や備品、雰囲気の良さがアクセスに含まれる(Ware et al., 1977)。アクセスのしやすさとは、病院への物理的なアクセスだけではなく、一般診療や手術の待ち時間、予約システム、窓口係、医師の変更、往診、予約などの手続、医師との連絡の取りやすさなどが含まれている。これらの要因が不十分な場合は、すべて患者の不満に影響する(Fitzpatrick et al., 1992)。
一方、我が国の文献において、アクセスは、医療機関への交通の便や自宅からの距離、待ち時間として捉えられており、欧米とは捉え方に大きな差がある。長谷川・杉田(1993)は、「待ち時間の短さ」の患者満足への影響は、小さいことを指摘した。施設等の物理的環境について、永井ほか(2001)は、病院では「雰囲気・快適性」、診療所では「施設内の清潔さ」が総合満足度に強く影響していることを報告している。
しかしながら、池上・河北(1987)は、病院での調査において、病院の公的・私的などの経営主体、病床数などの病院の規模、立地条件、開設時期などの外的な固定要因は患者満足と有意な関係はみられないことを主張している。長谷川・杉田(1993)は、病院での「建物の快適性」の影響は小さいことを明らかにしている。
(4)患者満足に関連するその他の研究
患者満足に関連する、その他の研究結果を以下にまとめる。
Stelfox et al.(2005)は、米国の大規模な教育研究病院において353名の医師を対象として医師に対する苦情、医療過誤訴訟と患者満足の関係を調査した。また、医師に対する患者満足を高中低に分割して比較した。その結果、最も満足が低いカテゴリーと最も高いカテゴリーを比較した場合、低い患者のカテゴリーを治療した医師は、患者からの苦情が多く、110%高い医療過誤訴訟率が示された。
結論として、医師の業績評価、患者からの苦情、医療過誤訴訟はすべて患者満足の指標であり、相互に関連していることを明らかにしている。
Platonova et al.(2008)は、プライマリ・ケア医と患者との信頼、良好な対人関係が、医師に対する患者の満足およびロイヤルティの主要な要因であることを明らかにしている。調査は、米国の主要な大学の一部である2つの診療所の内科外来患者554名を対象として仮説検証が行われた。その結果、患者の医師に対する信頼が満足とロイヤルティの両方に影響していた。また、忠節な患者は新しい患者をプライマリ・ケア医に紹介し、満足している患者は新しい患者を連れてくることが明らかになった。
Kennedy et al.(2014)の米国171病院を対象とした、患者満足と治療の良好な結果との因果関係に関する研究では、外科的手術を受けている患者の患者満足の高さと低い死亡率について因果関係が確認された。
Mittal(2016)は、PSSM(Patient Satisfaction Strategy Map)を活用し、プライマリ・ケア医に受診している939名に対してオンライン調査を行った。その結果、医療の質、医師との相互作用(交流)、スタッフ、治療を受ける機会、待合室は総合的な患者満足に影響を与えていた。総合的患者満足の高さは、患者による推薦、健康状態、生活の質に対する満足に正の影響を与え、他医療機関へのスイッチ、オフィスマネジャーへの不平、家族や友人への不満に負の影響を与えていたことを指摘している。
患者満足の向上は、苦情、医療過誤訴訟を軽減させ、低い死亡率に影響を及ぼしていた。また、患者満足は、ロイヤルティを形成し、新しい患者を連れてくる効果を発揮するなど、多くの結果を導く重要な指標となっていた。