(※写真はイメージです/PIXTA)

自らを化石医師と称する髙山哲夫氏の著書『新・健康夜咄』より一部を抜粋・再編集し、医療現場の実態を紹介します。

高齢者の声「皆楽しみにして並んで待っています」

「買い物バスで出かけるのが楽しみ」。84歳のMさんは独居です。この年齢の女性ですから車の運転はできません。Mさんの住んでいる地区は当地でも山間の地域であり買い物に出かけるのはなかなか大変です。

 

食材の確保はどうされているのか尋ねた私に対し「嫁いだ娘が時々食材を買ってきてくれそれを冷蔵庫に入れて使っています。その他にお買い物バスが来るのでそれを使って買い物に出かけます。それが楽しみ」と冒頭の返事でした。

 

「お買い物バス?」詳しく聞けば当地のスーパーマーケットが送迎バスを運行しているようです。「皆楽しみにして並んで待っています」と言われます。うれしい話を聞きました。

 

当該のスーパーは決して大きなスーパーではありません。でも食料品の他に洋品店、薬局、花屋さんなどが出店しておりちょっとした日常の買い物なら十分に間に合います。

 

以前化石医師は新病院を建設の時に、JRの駅と病院を結び、その通路に食料品をはじめ各店舗が出店できないか考えたことがありました。そうすれば電車を利用し通院される患者さんが通院の行き帰りに買い物ができJRも各店舗も病院もメリットがあり町づくりにも繫がると考えたのです。

 

残念ながら化石医師の構想は実現しませんでした。スーパーはJRの駅や病院とは少し離れた所に設置されました。そのため車でない限り病院受診の帰りに「ちょっと買い物を」という訳にはいかなくなりました。

 

そのような中でスーパーが自前のお買い物バスの運行を始めたのでした。

生活の足がない…車を運転し続ける高齢者の悲痛

「交通の不便な過疎地域で独居高齢者の方の食の確保をどうするか」。

 

筆者がずっと考えてきたことです。弁当の宅配、移動販売車など現在あちこちで展開されています。そうした中でお客の送迎を行う「お買い物バス」は移動販売車に比べ当然ながら品揃えも豊富で自分で選択ができます。

 

不自由を感じることなく買い物ができるのです。何よりも独居であり家に閉じこもりがちな高齢者の方が外出でき、色々な方と会話でき、社会に触れ合うことができます。

 

「楽しみです」と言われたMさんの言葉がそんな独居高齢者の方々の気持ちを示しています。

 

近年ご高齢の方の車の運転が問題になっています。実際に認知症のある方や難聴のある方、手足の運動障害がある方が運転されているケースも少なくありません。そのため免許更新手続きも厳しくなりました。

 

でも多くの高齢者の方々は「生活の足がないから」と運転を続けられているのです。核家族化の結果、高齢世帯、独居高齢者が増加しその多くは生活のための足を持ちません。

 

政府は「交通弱者のための公共交通機関の充実」を重要な政策の一つに挙げています。地域の自治体も地域巡回バスや通院バスの運行を行っています。そのような中でスーパーマーケットが自前のお買い物バスの運行を始めたことは注目に値します。

 

車社会の中で郊外に大型のショッピングセンターの設置が増えています。そのあおりで従来からの町の小規模小売店がつぎつぎに閉鎖し身近な場所での買い物は難しくなっています。このことも独居高齢者の生活継続を難しくする要因になっています。

 

でもこうしたショッピングセンターが今回のようにそれぞれ独自にお買い物バスの運行を始めたら、地域のご高齢の方々の生活はもっと豊かになり、もっと生活しやすくなるのではないかと思います。

 

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髙山 哲夫
1945年 松本市で生誕
1970年 名古屋市医学部卒業
1985年 国民健康保険坂下病院院長
2013年 国民健康保険坂下病院名誉院長
2006年4月より「社会保険旬報」に「随想―視診・聴診」を連載

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『新・健康夜咄』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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