目の前の親がわからない…写真には「ママ、パパ」と反応する子【小児科医の実録】 (※写真はイメージです/PIXTA)

小児科医である大宜見義夫氏の著書『爆走小児科医の人生雑記帳』より一部を抜粋・再編集し、子どもたちとの心の触れ合いを紹介します。本記事では、診察に来た2人の男の子について見ていきましょう。

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診察1:「ママ、パパって言ってくれないんです」

一歳六か月健診の会場で、奇声を上げる男の子がいた。保健師の相談項目には発語の遅れという記載があった。診察中もまわりをキョロキョロ見回し、落ち着きがない。母親の話では人見知りはせず、よちよち歩きでどこへでも向かうので目が離せないという。自閉症を疑わせる幼児である。

 

診察の際、母親とこんなやりとりをした。

 

「言葉があまり出ないと聞きましたが、どんな言葉が言えますか」「クルマは言えます。車が大好きで『クウマ、クウマ』と言います」

 

「ほかには何か言えますか」「祖父をジータンとは呼べます」

 

「ママやパパとは言わないのですか」「言いません」

 

「なぜでしょう」「共働きのせいでしょうか。ただ、親の写真を見せて『誰? 誰?』と聞くと、『ママ、パパ』と言えるようになりました」

 

「ママ、パパの写真をみせるとママ、パパとは言えるけれども、目の前のお二人には『ママ、パパ』とは言わないのですね」「そうです」

 

「日中は誰がみているのですか」「祖父です」

 

「おじいちゃんは元気ですか、いつも遊んでくれていますか」「ハイ、いつもふざけっこして遊んでくれます」

 

日中は車が好きな祖父とじゃれ合って育ったため、ジータンと車という言葉はいえるようになったがパパ、ママの言葉は出ない。

 

焦った両親は写真を見せ「パパよ、ママよ」と教えたつもりだが、写真のパパ・ママはパターン認識で覚えてくれたものの現実の親の実像とは結びつかないようだった。

 

自閉症の中には、相貌失認(そうぼうしつにん)といって人の顔を認識できないタイプの人がいる。

 

時々刻々と変化する顔の表情を認識できないのである。たとえ日々一緒に暮らしていても家族の顔すらおぼろげにしか見えないため、背丈や声、服や髪型などを通して人物を特定し、認識することだってある。

 

風景や書棚のような静止画像の詳細を一瞬で覚える能力はあっても、時々刻々と変化する顔の表情は読み取れないというケースを実際に経験した。

 

この子の場合、相貌失認によるものというより、親子間の情緒的交流に問題があるように思えたので、親子の密な交流を勧めると共に自治体でのフォローや障害児対応が可能な保育園への通園を勧めた。

診察2:視線を合わさない子に、医師が投げかけた言葉

ある日の保育園健診で、一列に並んだ幼児のひとりひとりに聴診器を当てておしゃべりしながら健診を進めていた。その中に一人、じっとできず、列をはみ出し動く男の子がいた。

 

保育士の話では、落ち着きがない、集団行動は苦手、指示が通りにくい、視線が合わない、衝動的なところがあるなど、発達障害を思わせる子なのだという。その男の子の順番が来た。体を左右にくねらし、視線は泳いでいる。

 

「お名前は?」ときくと、二度目の問いかけで機械的にポツリと答えた。

 

「何歳ですか?」ときくと三度目に「シャンサイ(三歳)……」と小声で答えた。

 

その間、視線は定まらない。その子に向かってこんな言葉で話しかけた。

 

「君はえらい! よう頑張っている! きちんと並んでいてくれたね。いつも頑張っているんだなー。えらい!」

 

すると、その子、初めて、こちらに視線を向けた。診察が終わった後も動こうとせず見つめている。保育士に促されて次の子に変わるときも、立ち去りながらもチラッとこちらを見た。

 

この三歳半の子は、自分が人と違うことを自覚しているのだ。

 

みんなと同じようにできない自分を自覚しているに違いない。わかっていながらできない自分のふがいなさを自覚しながら頑張っているのだ、と思った。「頑張っている」という言葉そのものの意味は分からなくても「自分をわかってくれている」という思いをくみ取ったに違いない。

 

自閉症の中には視線を合わすのが苦手の子もいる。目で見る、耳で聞く、言葉で応じるという一連の動作は「見る・聞く・答える」という三つの動作が同時にできて初めて可能となる。

 

自閉症の場合、目と耳の動きがうまく連動できないため、耳に意識を集中させると目がおろそかになる。逆に視線を合わそうとすると耳の方がおろそかになる。だから視線が泳いでしまうのだ。

 

一方、自閉症の子でも本人がすこぶる関心のある事柄に対しては耳と目の動きは完全に一致、連動する。ゲームやユーチューブを見る時のあの集中力と目の輝きがそれを物語っている。

 

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大宜見義夫(おおぎみ よしお)

 

1939年9月 沖縄県那覇市で生まれる
1964年 名古屋大学医学部卒業
北海道大学医学部大学院に進み小児科学を専攻
1987年 県立南部病院勤務を経ておおぎみクリニックを開設
2010年 おおぎみクリニックを閉院
現在 医療法人八重瀬会同仁病院にて非常勤勤務
医学博士
日本小児科学会専門医 日本心身医学会認定 小児診療「小児科」専門医
日本東洋医学会専門医 日本小児心身医学会認定医
子どものこころ専門医
沖縄エッセイストクラブ会員
著書:「シルクロード爆走記」(朝日新聞社、1976年)
「こどもたちのカルテ」(メディサイエンス社、1985年。同年沖縄タイムス出版文化賞受賞)
「耳ぶくろ ’83年版ベスト・エッセイ集」(日本エッセイスト・クラブ編、文藝春秋、1983年「野次馬人門」が収載)

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著者紹介

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※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『爆走小児科医の人生雑記帳』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。
※「障害」を医学用語としてとらえ、漢字表記としています。

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