本ニューズレターは、2021年9月30日までに入手した情報に基づいて執筆しております。
前号(2021年8月31日号)でご紹介したとおり、近時、企業がフェイクニュースやデマ情報によって危機に立たされるリスクが高まっており、また、企業不祥事発生時における二次的被害としての虚偽情報の流布・伝播への対応もますます重要となっています。本稿では、こうしたフェイクニュースやデマ情報に対し、企業がどのように対応すべきか、法的観点を中心に基礎的な点から解説をします※1。
※1 「フェイクニュース」という言葉は、その定義が明確ではなく、「disinformation」(虚偽情報・偽情報)あるいは「misinformation」(誤情報)という用語が用いられることもあります。本稿では、意図的に又は意図せず広められる虚偽もしくは不正確な情報であって、企業価値を毀損したり、正常な事業運営を妨げるおそれのある情報を広く検討の対象とすることとします。
今回は、本年4月に成立し2022年後半に施行される予定の改正プロバイダ責任制限法(以下「改正プロ責法」といいます。)の概要や、これを踏まえた今後の展望について紹介致します。
1. 「フェイクニュース」・「デマ情報」への対応における発信者情報開示の位置付け
フェイクニュースやデマ情報によって企業が被害を被った場合、捜査当局に対して告訴又は被害届の提出を行って刑事処分を求めるほか、虚偽情報の投稿者・拡散者に対し、民事訴訟(損害賠償請求、差止請求、名誉回復措置請求・信用回復措置請求等)を提起したり、仮処分の申立てを行うことが考えられます。もっとも、SNSや電子掲示板への虚偽情報の投稿や拡散は、匿名やハンドルネームで行われることが多く、訴訟提起や仮処分申立てのためには、虚偽情報の投稿者・拡散者を特定する必要があります。刑事告訴や被害届の提出に当たっても、被疑者不詳であるよりは、投稿者等が特定されている方が、捜査当局に積極的な対応を促す上でプラスに働くことになります。
このため、フェイクニュースやデマ情報に対して法的対応を講じる上では、発信者情報の開示はいわば避けて通れない最初の関門ということになります。