賃貸経営と生活の両面で将来が不安
今回の事例における家族の課題は次のとおりです。
この事例は賃貸不動産を所有する人が老後の不安を解消するために、不動産管理に関しては不動産信託、生活上の不安には任意後見契約を併用して備えようというものです。
Aさん(77歳)は賃貸不動産の経営をしています。今のところ、現役で経営に当たっていますが、今後、自分の判断能力が低下した場合に不動産の管理、収益の管理等をどうするかについて不安を抱いています。また、経営に関してだけではなく、生活上の諸問題についても不安があります。妻も同様、高齢であり、かつ不動産経営に関しては全く知識がありません。
そこで、Aさんはこの2つの不安を解消しようと、不動産管理については不動産信託、生活上の問題については任意後見制度を利用することにしました。
このケースで信託を活用するメリット
①不動産については信託契約を締結することで、売却することなく、かつ自らは管理することなく、継続的に賃料収入を受け続けられることになります。
②自己の判断能力が低下した場合に備えて任意後見契約を締結しておくことで、財産管理・身上監護に関する法律行為を委任することができます。
③信託会社は不動産信託に関してはプロですが、身上監護については行うことができません。一方、任意後見人は身上監護、財産管理はできるものの、不動産の管理については必ずしも専門家ではありません。しかし、この両者を併用することで、2つの不安を解消し、高齢者が安心して老後の生活を送ることができるようになります。
信託を実行すると・・・
①契約締結時
この時には不動産信託、任意後見契約を同時に行います。まず、信託契約ですが、委託者・受益者はAさんとなり、受託者は信託会社T社です。契約時には委託者Aさんから受託者T社へ信託財産の所有権移転・信託登記を設定し、T社に不動産の管理を委ねます。
次に任意後見契約ですが、任意後見人には本人が信頼する人を選んで依頼します。妻や子どもなど家族を任意後見人に選任することも可能ですが、後々、相続その他を巡ってトラブルが起こらないように注意が必要です。その意味では専門知識があり、かつ、第三者として長期にわたって依頼できる弁護士、司法書士等の専門家、さらに弁護士法人、司法書士法人等の法人に依頼するのが賢明でしょう。
この契約を締結するに当たっては、契約締結をする本人は意思能力(契約締結をするのに必要な程度の能力)を有していなければなりませんし、契約の方式は公証人の作成する公正証書によるものとされています。
②Aさんの判断能力が低下
判断能力が低下していると思われるようになった時点で一定の申立権者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、そこで任意後見監督人が選任された時に任意後見が開始されます。
一定の申立権者とは本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者のことです。これらの人たちは定期的に本人の様子を確認し、変調がないか、注意を払うよう努めましょう。
任意後見監督人とは、任意後見人が財産管理の権限濫用等の不正行為をしないか、監視することなどを職務とするものです。本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときには、任意後見監督人が本人を代理して行います。任意後見監督人は、その事務について家庭裁判所に報告する義務などが課されており、家庭裁判所の監督を受けます。
そのため、任意後見受任者本人や、その近い親族(任意後見受任者の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹)は任意後見監督人にはなれません。仕事の内容に鑑み、本人の親族等ではなく、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職に関連する個人、法人等が選任されるのが一般的です。