信託の受益者は委託者が決めることができますが、さらに後継ぎ遺贈型の受益者連続信託を上手に利用すれば、複数の子どものうちの1人と、その子孫だけにずっと遺産を承継していくことも可能です。ここではその具体的な方法をご紹介します。

法定相続分、遺留分を理解して信託を上手に使う

信託ではそもそも受益者を委託者が決めることができますし、さらに後継ぎ遺贈型の受益者連続信託を利用すれば、例えば、複数いる子どものうちで老後の面倒を見てくれた1人とその子孫だけにずっと遺産を承継していくというようなことも可能です。

 

しかし、ここで注意しなくてはいけないのは、法定相続人には遺留分があるということです。法定相続人、遺留分については以下で説明をしますが、もし、遺産のすべてを1人の子どもに譲ると信託した場合、他の子どもたちが異論を挟まず、遺留分減殺請求をしなければ、その通りに相続させることはできます。

 

ただ、もし他の子どもたちが自分たちにも遺産を分割してほしいと言い出したとすると、全部を1人に残すことは難しくなります。そうした事態を避けるためには、ある程度、他の子どもたちにも配慮した信託の設定が必要になるわけです。

「受益権」なら金銭同様に自由に配分できる

不動産だけが相続の対象となる場合、それを複数の相続人で分けようとすると、どうしても不公平になることがあります。金銭であればいかようにも配分できますが、同様に不動産も信託して受益権に変えてしまえば、分割、譲渡などが可能になります。

 

しかも、不動産自体は売却をしなくて済みますから、先祖伝来の土地などを残したまま相続し、財産を後世に伝えることが可能になります。

 

相続で争いが生じるケースの多くは、被相続人とともに家業を手伝ってきた、被相続人と同居して面倒を見てきたなど、他の相続人よりも被相続人及びその財産の保全などに寄与してきた人がいるにもかかわらず、遺産はその他の相続人も含めて等分に分けなくてはいけない、あるいは等分でなくても、財産をそのままの形で保持することができなくなるような分割をしなくてはいけないという場合です。

 

こうした場合、一般的に財産である不動産を売却することで解決を図るケースが多く、せっかくの財産を継承することができなくなります。また、同時に長年被相続人に尽くしてきた相続人と他の相続人の間に争い、しこりを残してしまう場合も多く、相続転じて「争続」となることも少なくありません。

 

しかし、不動産信託では財産を等分に分けることはもちろん、被相続人及び財産の保全に寄与してきた人に、その人の望む財産を承継できるように相続させ、それ以外の相続人にはその他の財産を不満が出ないように配分するなど、相続人の相互の利害を調整することが可能になります。

 

相続が争いに転じるきっかけの多くは、財産の配分が相続人に不公平感を感じさせたり不平等であったりすることなどからです。その解消のためには、できるだけ財産を分割しやすくして、相続人に不満を感じさせないようにすることが必要となります。

 

極端な配分を行い、遺留分を主張する相続人が出ると、相続は揉め事に発展します。そうした事態を招かないよう、受益権でそれぞれの相続分を調整し、仲良く相続できるように図るのが、円満な財産承継のための第一歩となります。

 

●遺留分減殺請求の例

Aさんが1億円の財産を残し、妻には財産は渡さないと遺言して亡くなったとしても、妻には法定相続分の2分の1の遺留分があるため、妻は2500万円の遺留分減殺請求をすることができます。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

資産運用と相続対策を両立する 不動産信託入門

資産運用と相続対策を両立する 不動産信託入門

編著 千賀 修一

幻冬舎メディアコンサルティング

高齢の不動産オーナーなどは、老後の不動産管理や賃貸経営、そして相続に関して、さまざまな不安要素が生じてくるものです。不動産管理に関する知識がなかったり、あるいは財産を目当てとした思わぬトラブルなどが発生したりし…

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