病気予防のために重要なこと
免疫とは、外から体の中に入ってきた病原菌やウィルス、寄生虫など、異質なものを排除するために体に備わった防御システムのことです。たとえば、風邪をひいたときには、自分の意志とは関係なく、体が鼻水やたんなどといっしょにウィルスを外に出そうとしますね、それが免疫です。
また、体内に自然発生したがん細胞を攻撃したり、傷やおできを自然に治して、元通りの体を維持しようとします。それも免疫の力です。
じつは、若くて健康な人の体でも1日に3000~5000個ものがん細胞が発生しているといわれています。しかし、すべての人ががんにかかるわけではないのは、免疫システムがはたらき、免疫細胞ががん細胞を攻撃するからです。
免疫細胞がつねに、そしていつまでも活発にはたらいてくれればありがたいのですが、残念ながら、その力は加齢や過度のストレスなど、さまざまな要因で低下してきます。
免疫力が低下してくると、風邪やインフルエンザをはじめとする感染症にかかりやすくなったり、アレルギー性の病気や生活習慣病、がんなどの命に関わる病気を発症するリスクも増えてしまいます。したがって、病気を予防するためにも免疫力を高めておくことが大切です。
恐ろしい…「慢性的な睡眠不足が肥満をもたらす」
1.自律神経系のバランスの崩れ
免疫力が低下する要因として、一つには「自律神経系のバランスの崩れ」が挙げられます。
自律神経とは脳の指令を受けなくて、いわゆる “自律”してはたらく神経のことをいいます。
自律神経には心臓を動かしたり、血圧を上げたり下げたり、消化するために胃酸を出したりと、生命の維持を司っている「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。
交感神経は私たちが運動や仕事などをしている昼間に活発にはたらき、興奮したり緊張したりしているときに強くなります。
一方、副交感神経は睡眠時や安静時に活発にはたらきます。どちらも昼夜休みなく24時間はたらき続けています。
2.過剰のストレス
過剰なストレスがかかると自律神経のバランスを崩し、免疫力が低下します。したがって、強いストレスも免疫力を低下させる要因の一つといえます。
現代は「ストレス社会」といわれるように、ほとんどの人が大なり小なりなんらかのストレスをかかえて生活をしています。そのためでしょうか、カウンセリングを受けたり、日常的に向精神薬を服用している人も珍しくなく、どこの病院も精神・神経科はほぼ満員という状況です。
一口に「ストレス」といっても、さまざまな種類がありますが、一般的にストレスといわれているものは、人間関係や仕事の問題、将来への不安などによる精神的なストレスのことを指す場合が多いと思います。
強いストレスがかかると、唾液中に「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌されます。すると交感神経が優位になり、自律神経のバランスが崩れてしまうのです。その結果、免疫力も弱まり、胃が痛くなったり下痢をしたり、ひどい場合は胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気を起こすことになります。
3.睡眠不足
免疫力が低下する原因としては「睡眠不足」も挙げられます。睡眠時間が少ないと体の回復力が低下し、免疫細胞の数も少なくなります。一日中活動して疲れた心身を回復させるためには、十分な睡眠が必要です。
これまでの疫学研究では、慢性的な睡眠不足が肥満をもたらすこともわかっています。しかし、そのメカニズムについては不明のままで、睡眠時間が人のエネルギー代謝にどのように影響するかがわかっていませんでした。
ところが、大幅に睡眠時間を抑制すると食欲抑制にはたらくホルモンが減少し、空腹感が増すなどの影響で肥満リスクが増加するということが、早稲田大学スポーツ科学未来研究所と花王株式会社ヘルスケア食品研究所との共同研究によって明らかになりました。
慢性的な睡眠不足は、身体の免疫力の低下や高血圧などの生活習慣病、自律神経のバランスの崩れ、記憶力の低下、意欲の低下などにも影響を及ぼすこともわかっています。
「体の冷え」は万物の敵
4.肥満
また、最近になって、「肥満」と「免疫力」の関係も知られるようになってきました。
「肥満によって免疫機能を調整するサイトカインという生理活性物質のバランスが崩れ、免疫機能に変調をきたした」ということを、日本女子大学の佐藤和人先生らのグループが報告しています。
余談になりますが、平成21年に大流行したインフルエンザでの死亡者や重症者に肥満の人の割合が高かったという報告もあります。これは肥満による免疫力の低下と関係しているのかもしれません。
別の論文によれば、内臓脂肪蓄積型肥満の人の大腸がん術後の予後が悪いことや、人工関節置換術を行った方の術後の炎症が起こりやすいことも報告されています。
腹八分目が健康に良いといわれていますが、肥満を防ぐことも健康長寿を目指す方法としては大切なことといえるでしょう。
5.体の冷え
さらに、「体の冷え」は自律神経のバランスを乱し、免疫力を低下させます。免疫細胞は37℃前後で活発にはたらくといわれていますから、体を冷やすと、当然免疫力も落ちてしまいます。そのため、肩こり、腰痛、下痢、便秘、生理不順、貧血などのさまざまな不快症状があらわれやすくなります。ですから、冬はもちろんのこと、夏でも冷房などで体が冷えすぎないように気をつけましよう。
6.タバコの喫いすぎ
また、「タバコの喫いすぎ」も体にとって有害です。タバコは空気の通り道である気道や肺自体へ悪影響を及ぼすことが知られています。喫煙は慢性気管支炎、肺気腫、喘息などの呼吸器疾患の原因と関連していますし、さらに歯周病の原因と関連があるという報告もあります。
タバコの喫いすぎはよくないということで、最近、ニコチンが含まれていない加熱式電子タバコが愛煙家の間で人気のようですが、じつは電子タバコに関する確実な研究結果はまだ出されていないのです。そのため、それがどのように人間の健康に影響を与えるかはわかっていません。
一般社団法人日本禁煙学会(理事長 作田学氏)は、「加熱式電子タバコは普通の紙巻タバコと同じように危険で、受動喫煙で危害を与えることも同様である」と、緊急警告を発しているのです(2017年7月21日)。
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北 廣美
1949年、奈良県生まれ。
1976年、和歌山県立医科大学卒業。
近畿大学医学部付属病院第一外科、昭和病院外科医長を経て、現在、医療法人「やわらぎ会」理事長。
主な著書
『C型肝炎と乳酸菌』(共著、メタモル出版)
『がんを倒す勝利の方程式』(共著、東邦出版)
『がん治療 重大な選択』(東邦出版)ほか