コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム議論が進まない理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「コロナ後の世界」に関する議論が激しく交わされていますが、それらの多くが、現在の社会における価値指標を用いてテクニカルに展開されていることに、山口周氏はとても違和感を覚えるといいます。その違和感の正体とは。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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UBIの導入の是非を古い価値基準で評価

■「資本主義をハックする」と言っている意味

 

人間は長い進化の過程のなかで「感情」という機能を獲得したと考えられます。なぜなら、もし「感情」が、個体の生存・繁殖に有利に働かないのであれば、そのような機能を私たちの脳が獲得するはずがないからです。自然はそんな贅沢を許しません。

 

私たち人間が「感情」という機能を獲得したのは、これが生存と繁殖に必須だったからです。これを逆に表現すればつまり、感情を押し殺すようにしてインストルメンタルな生き様を志向することは、むしろ生物個体としての生存能力・戦闘能力を毀損することになる、ということです。生きがいも楽しさも感じられない仕事に、給料が高いからという理由だけで携わっているのは、本質的に生命としてのバイタリティを喪失することになるのです。

 

さらに加えて指摘すれば、そのようなインストルメンタルな労働観をもつ人によって、不健全な仕事が労働市場から排除されずに残ってしまうという問題もあります。もし私たちが、自分の本来の感情、幸福感受性に根ざして仕事を選ぶことができれば、私たちの幸福に貢献しない仕事や活動は、社会から消えていくことになります。なぜなら、私たちの社会には市場原理が働くからです。ここに、私が「資本主義をハックする」と言っている意味があります。

 

UBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)の考え方はかつての社会主義と近接していることから、これを「資本主義の否定」と捉える向きもありますが、本当の狙いは真逆で、むしろ労働市場に市場原理をより徹底的に働かせるためにこそUBIの導入が必要だ、というのが私の考えであることを強調しておきます。

 

■「より良く生きるとはどういうことか?」という問い

 

UBIの導入については現在、さまざまなところで議論されていますが、率直に言って強い違和感を覚えることが少なくありません。なぜなら、それらの議論のほとんどにおいて、UBIの導入の是非が、「経済成長」や「生産性向上」等、近代化終了以前の「古い価値尺度」によって評価されているからです。

 

私たちはすでに近代化を推し進めていた「登山の社会」から、近代化を終了した「高原の社会」へと移行しているのですから、こういった「登山の社会の古い尺度」をもち出して、「高原の社会の仕組み」を議論しても仕方がないだろうと思うのです。

 

ここで問われなければならないのは、経済成長や生産性への貢献ではなく、そもそも「人間にとって、生きるに値するいい社会とは、どのような社会なのか?」という問いであるべきです。

 

新約聖書の『マタイによる福音書20』では、イエスが「天の国とはどのようなものか」というたとえ話をします。

 

ぶどう園の主人が朝、広場に出かけて日雇い労働者を「1日1デナリオン」という約束で雇います。やがて日が暮れ、ふたたび主人が広場に出かけてみると、そこで一日何もしていない人を見つけ、「ここで何をしているのですか?」と主人が聞くと、この人たちは「仕事にあぶれてしまったのです」と答えます。

 

そこで主人は彼らに「あなた方もぶどう園に行って働きなさい」とすすめます。さて1日が終わり、主人は、「朝から働いた人にも、夕方から働いた人にも、等しく1デナリオンの賃金を払いなさい」と命じ、まず夕方から働いた人に1デナリオンの報酬を支払います。これを見て、朝から働いた人々は「一日中、太陽の下で頑張った私たちの報酬はなぜ同じなのか」と詰め寄ります。いかにも真っ当な不平に思えますが、これに対して主人は次のように返します。

 

<わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。>
『マタイによる福音書』20.13

 

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ライプニッツ 代表 独立研究者
著作家
パブリックスピーカー

1970年東京都生まれ。神奈川県葉山町に在住。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。

電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

(的野 弘路=撮影)

著者紹介

連載日本人はコロナ後の世界をどう生きるべきか

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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