医療法人社団鈴木内科医院理事長兼院長、鈴木岳氏の著書『安らぎのある終の住処づくりをめざして』より一部を抜粋・再編集し、鈴木氏の経験を元に、「入居者にとって快適なサービス付き高齢者住宅」について考察していきます。

「環境の変化」は高齢者の生命力をしぼませてしまう

環境が大きく変わることを、外山義先生は著書『自宅でない在宅』の中で「5つの落差」と呼び、その落差がお年寄りの生命力をしぼませてしまう、と述べています。

 

1)「空間」の落差:あまりにも自宅と違う大きな空間、生活の場と言いながら、まるで大病院のような、まっすぐの長い廊下、その廊下に沿って並んだ多床室。そのような空間に、ある日突然連れてこられた認知症の方が、混乱しないはずはない。

 

2)「時間の落差」:職員が働きやすいように決められた日課に、ご自分の日課を合わせなければならない。

 

3)「規則」の落差:生活の場なのに規則だらけで自由を奪われる。

 

4)「言葉」の落差:年長者として遇する言葉遣いなどをしてくれない。

 

5)最大の落差:「役割」の喪失:スタッフに全てを委ねてしまい、何の役割もない。

 

このような落差を念頭に入れて、環境変化の衝撃を和らげるにはどうしたらいいのでしょうか。

「サ高住」ひと部屋ごとの適切な広さで業者と意見決裂

サービス付き高齢者住宅に建物に愛着が持てるよう、あるいは、どこか昔の記憶を呼び覚ませるよう、形にこだわりました。これは思った以上に好評でした。

 

サービス付き高齢者住宅は建築基準があり、バリアフリーであること、自室にトイレ洗面があることは必須条件です。これは体の自由が効かなくなったご高齢者には便利だと思います。

 

例えば、歳を取ると膀胱の機能が低下し、あるいは不眠になり、夜中に頻回にトイレに起きることが増えます。この時、自宅での転倒による大事故が起きやすいのです。自宅での小さな段差や、つかまれる所の不備だったり、廊下の狭さだったりが、トイレまでの道を遠くします。その点、自室にトイレがあれば、すぐにたどり着けます。

 

部屋の広さはどのくらいが適切なのか、業者と事務長、著者の意見は大きく割れました。日本のサ高住の最低の部屋の広さ基準は最低床面積が25㎡、共用部分が充実しておれば18㎡とスウェーデンでの住宅基準35㎡と比べて、大変に狭いものでした。

「商業効率重視」の意見に納得できなかったが…

施設ではない、住宅としての高齢者住宅という概念で決められたスウェーデンの35㎡を実現して当然と考えていた私は、業者の「それでは全然、ペイしません。その広さは自立型のご夫婦を対象とするならばアリかもしれませんが、自立が困難となった方、医療ニーズの高い方には広すぎると思います」という意見に納得できませんでした。その意見こそが、日本流の商業効率重視で、終の住処を考えるという大目標を阻むものに思えたのです。

 

事務長も業者さんの意見に同意していました。確かに論語と算盤とは言われるように、理想ばかり語って、採算が取れないのも困ります。しかし、莫大な投資をしてまでやろうという事業で安易な妥協は許せません。結局、年寄り世代の母の意見により、私の考えは妥協を迫られました。

 

「お前、35㎡なんて、年寄りには広くてかなわんよ。体が動かなくなってきたら、あちこち、つかまりながら歩くもんだ。掃除だって、自分でできなくなるんだよ」

 

それにしたって18㎡なんて、病院の特室のような狭さです。これが住居と言えるのだろうか? と甚だ不満だった私の意見に妥協し、作られたのが25〜26㎡の部屋14室でした。残りは18〜20㎡の21室になりました。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『安らぎのある終の住処づくりをめざして』より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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