ホ乳類以外のセキツイ動物の心臓のつくり
せっかくだから、他のセキツイ動物の心臓のつくりも少し見てみましょう。
左から順に魚類・両生類・ハ虫類・鳥類の心臓です。
右に行くほど、だんだん構造(こうぞう)が複雑になっていることがわかります。
ただ、ここで知ってほしいのは、「右に行くほどいい心臓、というわけではない」ということです。
まず、魚類の心臓は、心房(しんぼう)と心室(しんしつ)が一つずつ(1心房1心室)です。
心臓から送り出された血液は、エラで二酸化炭素と酸素を交換(こうかん)し、動脈血となり全身をめぐります。全身で酸素を使い終わった静脈血は心臓に戻ってきて、またエラへと送り出されるという、単純ながら無駄(むだ)なく完成された形になっています。
しかし、この完成された形を両生類は捨てなくてはなりませんでした。地上に進出し、肺呼吸を始めたからです。もともとは存在していなかった肺という器官に多くの血液を送り出すために、新しく肺循環をつくらなくてはならなかったんですね。
両生類の心臓は、心房が二つ、心室が一つ(2心房1心室)です。心房を二つにすることで、いちおう肺循環のルートはできたものの、心室が一つなので、そこで動脈血と静脈血が混ざり合ってしまい、純粋な動脈血を全身に送ることはできません。
そのため、両生類は肺呼吸だけでは生きられず、皮膚(ひふ)呼吸もしています。皮膚が水で濡れていないと皮膚呼吸はできないので、両生類は水の近くでしか生きられないのです。
ハ虫類の心臓も、心室の壁(かべ)が完全には閉じていない(不完全な2心房2心室)ので、純粋な動脈血を全身に送ることはできません。
ただ、両生類よりは2心房2心室に近くなったため、皮膚呼吸をする必要がなくなり、陸上生活により適応することができました。
鳥類の心臓は、完全な2心房2心室になっているので、静脈血は動脈血と混ざることはありません。やっと純粋な動脈血を全身に送ることができるようになったのです。
結果的に同じ2心房2心室を獲得したホ乳類と鳥類ですが、前にも言ったように、現在では両生類が進化してハ虫類やホ乳類が、ハ虫類が進化して鳥類が出現した、と考えるのが一般的です。
つまり、ずいぶん前に進化の道筋は分かれたことになります。
違うルートをたどったのに、結果的に同じ構造を獲得したのは、この形が陸上生活に合っていたから、ということなのでしょう。
生物のミニCOLUMN
進化の道筋が分かれた結果、鳥類がホ乳類より優れている部分も多くあります。その一つは肺です。ホ乳類は、肺を膨(ふく)らませたり縮ませたりして呼吸をします。ところが、「深呼吸」という言葉があるように、普段(ふだん)の呼吸では息を吐いたときにも完全に肺は空にならず、一部の空気が残ってしまいます。
それに対し、鳥類の肺はたくさんの細い管の集まりになっていて、空気がそこを通るときに酸素と二酸化炭素を交換しますが、肺そのものは膨らんだり縮んだりはしません。気嚢(きのう)という袋を膨らませたり縮ませたりすることで、肺のなかに空気を通すのです。空気の流れが一方通行になっているので、ホ乳類のように肺に使ったあとの空気が残ってしまうことはありません。そのため、気体の交換効率はホ乳類よりも優れていると言えます。
まず、前後の気嚢が同時に膨らみ、後部気嚢は体外からの空気を(矢印①)、前部気嚢は肺のなかの空気を(矢印③)取り込こみます。そのあと、前後の気嚢が同時に縮み、後部気嚢は肺へ空気を(矢印②)、前部気嚢は体外へ空気を(矢印④)送り出します。
立木 秀知
中学受験専門塾ジーニアス