(※写真はイメージです/PIXTA)

大阪の中心地に佇む築60年超の建物。家主は取り壊したいと考えていますが、唯一の入居者が退去を拒みます。83歳、生涯独身の杉山二郎さんです。頼れる身内は、連帯保証人である兄のみ。目を患っており、3年ほど家賃を払っていません。しかし高齢のため、強制執行は高確率で不能になると予想されます…。そこで家主たちは形だけ催告をし、調書をもって役所等へかけ合うことで転居先を探す、という方法を取ることにしました。OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

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    受け入れ施設が見つかるも、「入所条件」に阻まれる

    梅雨で鬱陶しい日々が続く頃、動いてくれていた役所が受け入れてくれる施設を見つけてくれました。入所の条件は身体検査を受けるということと、お身内の身元保証人をつけるということ。

     

    せっかく見つかった施設、これを逃す訳にはいきません。身元保証人については、唯一の親族である杉山さんを説得するしかありませんでした。

     

    「お金は払います。それ以外は勘弁してください」

     

    長年絶縁状態だった兄の立場から、杉山さんは絞り出すような声で受け入れてはくれませんでした。それも仕方がないことかもしれません。もう関わりたくないのでしょう。

     

    残念なことに杉山さんは、その後、弁護士の元に駆け込んだのです。杉山さんの依頼した弁護士から、電話がありました。

     

    「代理人になりましたので、杉山には連絡しないでください」

     

    お名前から調べてみると、大きな事務所の先生でした。

     

    「二郎さんが入る施設が見つかりました。ただどうしてもお身内の身元保証人が必要なんです。頼れるのは杉山さんしかいません。ご協力していただけませんか」

     

    こちらの願いも空しく、弁護士は声を荒らげます。

     

    「私は法律家です。法律の話しかできません」

     

    そして電話は切られてしまいました。

     

    役所の方にも身元保証人の話は何とかならないかと掛け合ってみましたが、やはり特別扱いはできないと。結局、せっかく見つかった施設も、二郎さんは入ることができませんでした。

     

    そこから数ヵ月、二郎さんと私、二郎さんと役所の人の関係は、一進一退でした。ドアを開けて話ができたり介護のサポートができるときもあれば、喚き散らして話ができないこともあります。

     

    二郎さんは、執行の催告のときより、さらに痩せているようです。部屋の前にあるトイレにも、行けていないのでしょう。あのツンと鼻につく臭いは、物件の玄関に立っただけでも気になるほどになっていました。

     

    何とかしたいけど、できない。駆けずり回って候補になる施設は見つけても、やはり身元保証人の問題で止まります。どうしても血縁でないと対応できない壁に阻まれ、執行官ですら「こりゃ、解決は難しいかもな」と言い、私たちも出口が見えない迷路に入り込んだようでした。

    次ページ強制執行当日。痩せた二郎さんは、ひょいと簡単に…
    老後に住める家がない!

    老後に住める家がない!

    太田垣 章子

    ポプラ社

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