(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年8月17日に公開したレポートを転載したものです。

3―2019年の厚生労働省通知

厚生労働省は、従来、各都道府県からの個別事例の疑義照会などへの回答等の形で、応召義務違反に該当するか否かについて、逐次その解釈を示してきたが、十分に整理・体系立てられたものとはなっていなかった。

 

また、現代においては、1948年の医師法制定当時と比べて、医療提供体制が大きく変遷してきている。そこで、2019年に、応召義務の考え方について、整理・統合が図られ、厚生労働省通知が出された。その内容を、概観していこう。

 

1.応召義務解釈に関する研究報告書がまとめられた

 

まず、2018年度の厚生労働科学研究として、医師法の応召義務解釈に関する研究が行われた。2019年に、その報告書がまとめられた。

※ 「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について」(厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)),研究代表者岩田太(上智大学法学部教授)

 

報告書では、正当な事由について、診療しないことが正当化される事例の一般的な整理と、個別事例ごとの整理が行われた。

 

(1)診療しないことが正当化される事例の一般的な整理診療(勤務)時間内かどうか、緊急対応が必要なケースかどうか、に応じて、考え方が整理された。

 

たとえば、診療時間内に、病状が深刻な救急患者に対応するときは、事実上診療が不可能といえる場合にのみ、診療しないことが正当化される、としている。

 

[図表3]診療しないことが正当化される事例の整理
[図表3]診療しないことが正当化される事例の整理

 

(2)個別事例ごとの整理

 

患者の迷惑行為、医療費の不支払い、入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院、差別的な取扱いといった、個別事例ごとに、考え方が整理された。

 

たとえば、診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続けるなどの患者の迷惑行為があり、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化されるとしている。

 

[図表4]個別事例ごとの整理
[図表4]個別事例ごとの整理

 

2.応召義務の考え方をまとめた通知が発出された

 

この報告書の内容を踏まえて、2019年12月25日に厚生労働省より、各都道府県知事宛の通知が発出された。

 

そこでは、まず、医師の応召義務と医療機関の責務、労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示、診療の求めに応じないことが正当化される場合について、基本的考え方が示されている。

 

このうち、労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示に関しては、勤務医が、こうした指示を受けた場合、労働基準法等に違反することとなることを理由に、診療等の労務提供を拒否しても、応召義務違反にはあたらないことが明確化された。

 

また、診療の求めに応じないことが正当化される場合に関しては、最も重要な考慮要素を病状の深刻度としたうえで、診療(勤務)時間や、患者と医療機関・医師の信頼関係も重要な要素とされた。そのうえで、前節の報告書の内容に沿った考え方の整理が行われている。

 

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