(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年8月17日に公開したレポートを転載したものです。

4―新型コロナウイルス感染症の診療への適用

2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症が徐々に拡大していった。その際、患者の診療に関して、医師の応召義務が注目されることとなった。関連する動きについて、みていこう。

 

1.応召義務について連絡文書で周知された

 

最初の感染拡大が進行した2020年3月11日に、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は、各都道府県等に対して、診療に関する留意点について連絡文書を発出している。その中で、医師の応召義務について、以下のとおり示している

※ その後、6月2日発出の2回目、10月2日発出の3回目の連絡でも、応召義務については、同じ内容とされている

 

「患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することは、応招義務を定めた医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項及び歯科医師法(昭和23年法律第202号)第19条第1項における診療を拒否する「正当な事由」に該当しないため、診療が困難である場合は、少なくとも帰国者・接触者外来や新型コロナウイルス感染症患者を診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨すること。」

 

この連絡文書は、単純にコロナ感染が疑われる症状や海外渡航歴を理由に診療拒否をした場合、応召義務違反に問われる可能性がある、と読むことができる。

 

たとえば、診療可能な医療機関への受診勧奨をせずに、単に「発熱者お断り」等と掲示して、発熱患者の診療を一切拒否した場合は、診療を拒否する正当な事由があるとはいえない可能性がある

※ 「診療・検査医療機関等において新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者に処方箋を交付する場合の留意事項について」(厚生労働省新型コロナウイルス対策推進本部他,事務連絡,令和2年12月24日)の内容を筆者が一部改変

 

ただし、「診療が困難である場合は」以下のくだりをみると、コロナ感染者に対する診療が困難な場合は、適切な医療機関への受診を適切に勧奨することや、保健所の指示に従うように誘導すれば問題ない、と解することもできる。

 

2.2類感染症の診療をしないことは差別的な取扱いにあたらないとされている

 

2019年12月の通知では、「(2)個別事例ごとの整理」の「④差別的な取扱い」に、感染症について、「特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。」とされている。

 

新型コロナウイルス感染症は、2020年2月1日に、感染症法上の指定感染症(2類感染症相当)と政令で指定されている。したがって、この通知と連絡文書を踏まえると、「感染症に対応できないこと」を理由に、診療せずに、帰国者・接触者外来への受診を勧めることは、差別的な取扱いにはあたらないものと考えられる。

※ 法律上、指定感染症の期限を2年間以上に延ばすことはできない。このため、2022年1月末までに感染症法上の位置づけが決められるものと思われる。

5―おわりに

(私見)医師の応召義務については、正当な事由の解釈に関して、2019年に考え方が整理された。期せずして、2020年より流行している新型コロナウイルス感染症の診療において、応召義務の有無の判断に、その考え方が用いられることとなった。

 

今後、この考え方を医療現場で採用することに伴って、コロナ禍での対応を含めて、さまざまな判断事例が集積していくものと考えられる。引き続き、医師の応召義務に関する、診療の動向について、注視していくこととしたい。

 

 

篠原 拓也

ニッセイ基礎研究所

 

 

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