「渋沢さんの言葉は強く心に響きます」とビビる大木氏。

お笑いの世界にも、お笑いのアシストがあるといいます。しかし、このアシストは芸人にとっての手柄である「笑い」を、他の芸人に譲ることを意味します。渋沢栄一、吉田松陰から学んだものは何か、歴史好きとして知られるお笑い芸人のビビる大木さんが解説します。※本連載は、ビビる大木氏の著書『ビビる大木、渋沢栄一を語る』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

事前の準備も大切なお笑いのツッコミ

志が立派なだけでは、世間は信用しない。やはり、行動である
志がいかに善良で忠恕の道に適っていても、その所作がこれに伴わなければ、世の信用を受けることができぬ訳である。
【『論語と算盤』常識と習慣】

 

■「事象経営者」とニュース番組のアナウンサーが話す

 

最近、ニュース番組の報道を聞いていますと、犯人で捕まった人間に対して、「『自称経営者』と警察には話しているようです」といった説明が耳に入ってくることがあります。

 

これは実際には、「何をしている人間かわからない。本人は経営者と言っているが、それを証明するものは何もない。しかし、所持金はある程度持っているが、何か信用できない」ということだと思います。つまり、行動が伴っていないので、信用されていない実態を表しています。

 

この渋沢さんの言葉を聞いて感銘を受けたのは、「その所作がこれに伴わなければ」という1行があることです。この1行をつけることで、志の深さが全然違ってきます。さすが渋沢さん、洞察力の鋭い方だなと思いました。

 

 

■知らないとツッコミはできない

 

仕事がら、相手の話にパーンと返す、つまりツッコミするためには、常にたくさんの引き出しを準備、整備しておく必要があります。若い頃はそんな「準備しなきゃ」という意識がありました。

 

5~6歳年上の先輩芸人に可愛がってもらっていたので、現場でこの先輩が話した内容にツッコミができるようになりたいと思ったものです。

 

音楽にせよ、映画にせよ、どうしてもその先輩の世代のものについての話題になります。すると、先輩が何かボケを言ったときに、その音楽や映画を知らないとツッコミできません。その本を読んでいないと、そのアーティストの曲を聞いていないと、ツッコめない。そういうことがたまにあります。

 

僕はそういうときに、いろいろ知っていて損はないなと思いました。知ることに、別に無駄はないぞと思ったのです。それで、まずはいろいろな年代の映画を見ました。先輩が「いいぞ」と話していたマンガを読みました。あらゆるものを吸収する時期があったのです。

 

逆に言うと、制限がないのですごく疲れます。どれを読むか、どれを見るかを自分で選ぼうとすると疲れるものです。最終的には、自分の好きなものを読んだり、見たりするしかなくなってきました。若い頃はそんなふうに考えて過ごしていたんです。

 

■貴さんと『タワーリング・インフェルノ』の思い出

 

僕は広く浅く収集するタイプで、たとえば僕の世代では誰も見ていなかった、『タワーリング・インフェルノ』という映画も見ました。スティーブ・マックイーンが主役で、1975(昭和50)年公開の映画です。

 

僕は1974(昭和49)年生まれですから、リアルタイムで見ていません。何かの雑誌でその映画が紹介されているのを見て、「パニック映画がこの時代にあったんだ」と思いました。要は『ダイ・ハード』の元になっている映画で、長かったのですが一応見ておこうと思って見ておきました。

 

そうすると、何かの番組で、「とんねるず」の石橋貴明さんが、明らかに『タワーリング・インフェルノ』の話をしたのです。

 

僕は、「いや貴さん、それはパニック映画の金字塔じゃないんですから、やめてくださいよ」みたいなことを言ってツッコミました。周りを見ると、みんなポカンとしていました。

 

貴さんは、「いや俺、好きだったんだよ、『タワーリング・インフェルノ』」ととても嬉しそうでした。そこは放送上カットされてしまいましたが、貴さんの満足気な表情は、今でも僕の記憶に鮮明に残っています。

 

事前の準備が芸人としての所作とは断言できませんが、こうした行動を伴うからこそ的確なツッコミもできるし、それを積み重ねていくことが芸人として信頼を得ていくことになるのではないかなと思います。

 

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ビビる大木、渋沢栄一を語る

ビビる大木、渋沢栄一を語る

ビビる 大木

プレジデント社

歴史好き芸人・ビビる大木が、 同郷の偉人・渋沢栄一の遺した言葉を紐解く! 「はじめまして、こんばんみ! 大物先輩芸人と大勢の後輩芸人の狭間で揺れる40代『お笑い中間管理職』の僕。芸人としてこれからどうやって生き…

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