「コロナ規制を全面解除する」…コロナ先進国・イギリスの“賭け”から1ヵ月後 (※写真はイメージです/PIXTA)

7月19日、イギリスは新型コロナウイルス関連の法的規制を全面解除しました。ただし全面解除からわずか2日後の7月21日の段階で、WHOは、従来の変異株以上の感染力を持つデルタ株が124ヵ国で確認されたことを報告しています。デルタ株が猛威を振るう中で下された決断は、どのような結果となったのでしょうか。全面解除から1ヵ月が経過した今、イギリスの現状を見てみましょう。

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感染拡大中でも規制解除…英国の「賭け」に世界が注目

2021年7月19日、英国は、新型コロナウイルスによる国内の規制を全面解除しました。この日は、英国内の多くの人々から「自由の日(Freedom day)」と呼ばれています。パブやスポーツスタジアムなどが再開し、企業は通常通り営業、ソーシャルディスタンス(対人距離の確保)の義務はなく、空港や病院などの特定の場所以外で、マスク着用の必要なし、さらに、ワクチンを接種した人は、新型コロナウイルスに感染した人と接触しても、隔離の必要もなくなりました。

 

ちなみに、ニューヨークタイムズ(以下NYT)によると、7月19日に新しく報告された英国の新型コロナウイルスの感染者数は3万9,538人、死者19人、日本は感染者数2,368人、死者13人でした。またOur World in Dataによると、7月19日に新しく報告された英国の新型コロナウイルスの感染者数は100万人あたり約596人、日本は100万人あたり約19人(※1)。つまりイギリスは、日本とは桁違いの感染者数で規制を緩和しているのです。

 

このような英国の状況を、7月2日に掲載されたNYTの記事『デルタ株にもかかわらず再開、という英国の賭けを世界は注目している』は、「ボリス・ジョンソン首相は、ワクチンによって患者数と入院数の関連性がなくなったと確信しているようだ。あと数週間もすれば、彼の考えが正しいかどうかがわかるだろう」「新型コロナウイルスの患者が急増している中で、社会を再開するという英国の決意は、大胆な実験と言える」と報じました(※2)

 

エジンバラ大学グローバル公衆衛生プログラム責任者デヴィ・スリダール博士は、NYTで「英国では、先進国の中でも最も長い期間にわたってロックダウンが行われていましたが、最も迅速にワクチンを導入し、現在では再開しています」「世界は、英国が、新型コロナウイルスと高いワクチン接種率の中で、どのような生活を送るのか注目しています」「これからの数週間で、彼らの賭けが正しかったのか、それともまた入院患者が増えてしまうのかが明らかになるでしょう」と述べています。

 

※1 https://ourworldindata.org/covid-cases

※2 https://www.nytimes.com/2021/07/02/world/europe/coronavirus-britain-reopening-delta-variant.html?action=click&module=RelatedLinks&pgtype=Article

研究者は、自由の日を「危険で非倫理的な実験」と非難

英政府の発表を受け、7月14日の英・科学誌『ネイチャー』は、「世界中の研究者は、感染症が増加している中で規制を緩和すると、新しい変異株が出現するリスクを高め、ワクチンを接種していない人々の健康を危険にさらすことになる」「この緩和策は、前例のない公衆衛生上の実験であり、多数の入院患者や死亡者を出し、ワクチン耐性を持つ変異株が出現する可能性を高める」と指摘しました(※3)

 

世界中の研究者が特に懸念しているのは、ワクチンを接種した集団の中で高い感染率が続くと、さらに問題のある変異体が生まれ、それが世界中に広がる可能性があるということです。

 

『ネイチャー』に、英医師会の公衆衛生医学委員会元委員長ピーター・イングリッシュ博士は、「今、規制を緩和する正当な理由はまったくありません」「どちらかというと、少なくとも患者数の増加が元に戻るまでは、制限を強化すべきです」と述べました。

 

一方、英政府は、ワクチン接種が順調に進んでいることにより、感染症と入院や死亡との関連性が弱まっているという観点から、制限による経済、生活、教育、精神的健康へのダメージを考慮すると、緩和は正当化されると主張しています。7月上旬の時点で、国民の約68%が少なくとも1回のワクチン接種を受け、52%が2回目の接種を済ませています。当時の感染状況は2月の状況と同程度ですが、入院や死亡は10倍以上も減少していました。

 

また、ロンドン大学クイーン・メアリー校のディープティ・グルダサニ博士らは、7月7日の英・医学誌『ランセット』に、「自由の日に、ほぼすべての制限が解除される予定です。この決定は危険であり、時期尚早です。私たちは、政府が危険で非倫理的な実験に着手していると考え、7月19日に緩和策を放棄する計画を一時停止することを求めます」と非難の書簡を掲載しました(※4)

 

英医師会もこの計画に反対しています。

 

『ネイチャー』は、「研究者の多くは、妥協が必要であることを認めています。制限による経済的・社会的コストは、無制限に課すにはあまりにも重大です。専門家たちは、最小限のコストや不便さで感染を減らすことができる対策、特にマスク着用の義務化を放棄したことを批判しています」といいます。そしてイングリッシュ博士は、「どの対策が最も効果的で、どの対策をやめることができるかを、これまでに得られたすべての知見に照らして検討すべきです」と指摘します(※5)

 

インペリアル・カレッジ・ロンドンのアズラ・ガーニ博士もこれに同意し、「科学界の多くの人は、もっと緩やかな緩和を望んでいました。すべての成人にワクチン接種の機会が与えられるのを待っていたのです。介入が完全に緩和されると、感染レベルは、これまでのパンデミックのどの時期よりもはるかに高くなる可能性があります」と批判します。

 

※3 https://www.nature.com/articles/d41586-021-01938-4

※4 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)01589-0/fulltext#%20

※5 https://www.nature.com/articles/d41586-021-01938-4

規制解除から1ヵ月後…「文句なしの成功とは程遠い」

米CNNは、英国の規制解除の1ヵ月後の状況を「この動きは、厳しい状況に置かれている多くの英ビジネス業界のから歓迎されたものの、何千人もの科学者は『危険で非倫理的な実験』と批判している」と評しています(※6)

 

疫学者たちは、再開後、新型コロナウイルスの感染者数が増えると予想していましたが、少なくともすぐには起こりませんでした。制限解除の直前には新規感染者数が増加したものの、再開後の数週間は減少しました。

 

CNNによると、この予想外の減少は、人と人との接触が一部の予測ほど急激に増加しなかったこと、感染者数の急増につながったサッカー2020年欧州選手権(ユーロ2020)が7月11日に終了したことなどが要因と考えられます。再開前に感染者が急増したため、陽性と判定された人と接触した後、多くの人が隔離されていました。さらに英国では、7月16日から学校の夏休みが始まっていたのです。

 

ただし、1ヵ月経った今、ワクチン接種は効果があるものの、再開には代償が伴うことが明らかになってきました。

 

Our World in Dataによると、英国では全人口の60%がワクチン接種を完全に終えています。英国では入院が増加していますが、ワクチン接種のおかげで、入院する人の割合は以前に比べてはるかに少なくなっています。死者数についても、毎日1,300人もの人が亡くなっていたパンデミックのピーク時に比べればはるかに少ないです。

 

ただし、バース大学数理生物学センター共同ディレクターであるキット・イエーツ博士は、CNNで「英国では、1日平均約90名の方が新型コロナウイルス感染症で亡くなっています。私たちの再開は、文句なしの成功とは程遠いものでした」「1日に約800人の新型コロナウイルスの患者が入院しており、英国の公的医療制度は再び圧迫され、必要な非緊急医療を提供することができなくなっている」と語ります。

 

さらに、英国では9月から新学期が始まるため、子供の新型コロナウイルスの感染者が増えるリスクがあります。なぜなら、ほとんどの子供は、新型コロナウイルスのワクチン接種を受けていないからです。

 

8月4日のBBCによると、英国では、16歳から17歳のすべての子供と、リスクのある12歳から15歳の子供(重度の神経障害、ダウン症、がんなど免疫力が著しく低下している場合、重度の学習障害など)にワクチンが提供されていますが、12歳から15歳の健康な子供や、それよりも幼い子供にはワクチンが提供されていません(※7)

 

ちなみに米国、フランス、オランダ、ドイツ、イタリアなどのEU、カナダ、中国やブラジルなど、多くの国ではすでに12歳以上の子供に対するワクチン接種を決めています。

 

グルダサニ博士は『ランセット』で「すでに大きな被害を受けている、ワクチンを接種していない子供や若者に不均衡な影響を与えます」と批判しています。

 

※6 https://edition.cnn.com/2021/08/19/health/uk-coronavirus-month-since-freedom-day-intl-gbr-cmd/index.html

※7 https://www.bbc.com/news/health-57888429

国民は「高い感染率」を容認?恐ろしいニューノーマル

そんな英国の状況をみて、8月28日に掲載されたNYTの記事『英国人は新型コロナの感染率が高くても動じない。自由の代償を考える』では、「英国では、1日に3万人以上のコロナウイルス感染者が報告されているが、人々はそれを受け入れているようだ」と報じています(※8)

 

キングス・カレッジ・ロンドン大学の遺伝疫学教授ティム・スペクター博士は、NYTにて「私たちは、このような高い感染率があることを気にしていないようです。『これは自由の代償なのだ』と受け入れているようです」と語ります。

 

変異体の培養からワクチンの展開まで、英国がこれまでの多くの新型コロナウイルス開発の先駆者であったことを考えると、専門家はこの状況から他の国の将来を垣間見ることができると言います。

 

これは、英国の感染率が高いとはいえ、英政府が先月、制限をほぼ全面的に解除したときに予測していたほどには上昇していないことに起因しているのかもしれません。また、多くの英国人がワクチンを接種しているため、重篤な症例が報告されていないということもあるでしょう。また、17ヵ月間の厳しいニュースや息の詰まるような監禁生活の疲れもあるでしょう。

 

いずれにしても、パンデミックの初期段階に比べて、感染者のうち入院する人の割合が大幅に減少していることから、新規感染者数はかつてほど重要な指標ではなくなっています。

 

データが入手可能な直近の日付である8月24日には、約970人が病院に入院(前回の感染者数のピークである1月12日は4,583人)しました。ただし、入院患者数は増加しており、死亡率も上昇しています。

 

ブリストル大学の公衆衛生学客員教授で、元地域保健局長のガブリエル・スカリー氏は、「これは恐ろしいニューノーマル(新しい状態)です」と述べています。

 

※8 https://www.nytimes.com/2021/08/28/world/europe/coronavirus-britain-uk.html

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

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