医療現場でタブー視されがちな「経営」の定義
経営=金儲けをイメージするので、これまで医療の現場で経営を語ることは禁句とされてきました。それではそもそも経営の定義とはなんでしょうか。会社などの営利企業の目的は株主価値の最大化であり、経営とは「資源を活用して付加価値を作り出す活動」と定義できます。
営利基準(お金儲け)が有利な点は
・営利はただ一つの基準に向けて組織全体を動員できる
・成果とコストの量的分析が可能
・多くの事象展開を一つの基準にまとめることが可能
・営利基準によって権限委譲が可能
などが挙げられます。
いわば利益(お金という単位)=シンプルな基準と言えます。一方、非営利組織である病院や行政組織、大学は利益を上げることのみがその目的でないがゆえに、運営上の指標が明確でなく、営利組織に比べると運営が難しくなります。非営利組織においては利益が多い=経営の成功とは言えないからです。
そこで、非営利組織における経営の定義としては「人を動かして構想を実現させること」とするのが相応しいと考えます。本記事では経営とは「すべてのステークホルダー(stake holder)を幸福にするための手段」と定義しようと思います。
ステークホルダーとは利害関係者の意味であり、企業で言えば株主、投資家、顧客、仕入れ先、従業員、そしてその家族、さらに大きく捉えると地域や社会全体です。
一方、病院では医師、 看護師、薬剤師、栄養士などの医療専門職、事務職員に加えて、医療機器や製薬企業、患者、そしてその家族、地域や社会全体が含まれます。したがって、病院経営会議では収益や稼働率、病床稼働率の議論ばかりではなく、これらのステークホルダーをどのようにして幸福にするかについて議論すべきです。
皆様の病院はいかがでしょうか?
「入院患者数が前年度比95%なので努力ください」「救急患者はどんな疾患であっても全例受け入れます」そんな会議がほとんどで、ステークホルダーをどうやって幸せにするかといった議論は稀かと思います。
一方で、皆様ご自身のマネジメントという視点で考えると、それは皆様の人生のステークホルダーをいかに幸福にできるかということになります。したがって、経営学を学ぶことは自身の人生において“生き方を学ぶこと”に直結します。
このことから経営学は万人の帝王学と呼ばれます。万人が対象ですから、企業、病院のみでなく、国、都道府県、市町村、そして皆様ご自身が対象になるわけです。