委託者、受益者が不利になる行為は基本的に禁止
忠実義務を具体化した禁止事項のひとつが利益相反行為の禁止です。信託法は31条で、具体的に利益相反行為として禁止される行為の内容、例外として利益相反行為ながらも許される要件等について詳細な規定を設けています。
また、信託業法も29条2項以下に利益相反行為の禁止に関する規定を設けており、こちらについては特約があっても排除できない強行規定となっています。
では、具体的にどのような行為が禁止されるのでしょうか。簡単に要点だけをまとめておきましょう。まず、禁止される利益相反行為は以下の4種類です。
①信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む)を受託者の固有財産に帰属させ、または固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む)を信託財産に帰属させること。
②信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む)を他の信託の信託財産に帰属させること。
③第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人になって行うもの。
④信託財産に属する財産につき、固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定すること、その他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者またはその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの。
①はいわゆる自己取引といわれる行為で、②③は実質的には双方代理といわれる取引になります。④は間接取引で、いずれも専ら受託者の利益を優先する取引であり、委託者、受益者に損害を招く可能性があります。そのため、いずれの取引も原則として禁止されています。これとは逆にここまで述べた利益相反行為に該当している場合でも、例外的に許容されるケースがあります。それが以下の4つの場合です。
①信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。
②受託者が当該行為について、重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。
③相続その他の包括承継により、信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。
④受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、または当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び様態、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。
信託業法でも同様に利益相反行為が許されるための要件が定められていますが、こちらは信託法の規定よりも厳しく定められており、受託者へ取引に関する判断が委ねられているといっても、委託者、受益者の不利になるような行為はできないような形となっています。
忠実義務のもうひとつの禁止事項は競合行為です。信託法32条では競合行為について「受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。」と定めています。
非常に回りくどくわかりにくい条文ですが、要するに、それをすることによって信託財産に不利益を及ぼすような取引をしてはならないということを意味しています。受託者が当該信託以外の営業を行っている場合などには、それをすることによって信託財産に不利益になるようなこともありますが、信託法はそのような場合にも受益者の利益を優先すべきことを定めているのです。
ただし、競合行為の禁止に関しても利益相反行為の禁止同様に例外規定が定められており、契約書に競合行為を許容する定めがある場合、競合行為をすることについて重要な事実を開示して受益者の承認を得た場合には、それを行うことができます。
義務、禁止事項に違反した受託者には法的責任が・・・
ここまで信託財産を守る受託者の義務について説明してきましたが、受託者は、これらの義務、禁止事項に違反した場合には、以下の通り法的な責任を負うことになっています(信託法40条)。
①信託財産に損失が生じた場合:当該損失のてん補
②信託財産に変更が生じた場合:原状の回復
これらの責任は、受託者自身が違反した場合のみならず、事務を委託した第三者が違反した場合においても、第三者に事務を委託しなかったとしても損失または変更を免れることができなかったことを証明しない限り生じます。
また、受託者が法人である場合には、理事、取締役もしくは執行役またはこれらに準ずる者も、状況によっては連帯責任を負うこととなっています。このように、違反についても信託法は受託者に厳しい定めを科しているといえます。
【POINT】
① 信託事務の処理を第三者に委託することはできるが、安易には行えない
② 帳簿作成、保存には一定のルールがある
③ 禁止行為を行うとペナルティーが科される