相続税法では受益者連続信託がより広く定義
相続税法上、受益者連続信託は、以下のように定義されています。
相続税法9条の3
●信託法91条に規定する信託
●同法89条第1項に規定する、受益者指定権等を有する定めのある信託
●その他、相続税法施行令1条の8で定める信託(下記)
相続税法施行令1条の8
●受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者等の有する信託に関する権利が消滅し、他の者が新たな信託に関する権利を取得する旨の定めのある信託(信託法91条に規定する信託を除く)
●受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者等の有する信託に関する権利が、他の者に移転する旨の定めのある信託
●信託法91条に規定する信託及び同法89条1項に規定する受益者指定権等を有する者の定めのある信託、並びに前2号に掲げる信託以外の信託でこれらの信託に類するもの
このように相続税法上では、受益者連続信託について信託法89条1項及び51条の考えを引用しつつも、これらに類似するものについても受益者連続信託として定義されています。
信託法上では専ら、信託法91条に該当する信託について受益者連続信託と定義しているため、相続税法で定める受益者連続信託がより広く定義されています。
とはいえ、各々で定義されている信託は、受益者の死亡等を原因として信託に関する権利が、当初受益者から新たな受益者に移転する内容のものであり、新たに信託受益権を取得した受益者に対しては、相続税もしくは贈与税が課税されることが想定されます。また、これ以外の信託でも上記の条件に当てはまれば、相続税課税の段階では受益者連続型の信託と判断されることがあるので、注意をしておく必要があります。
受益者連続信託に関する権利の評価は?
受益者連続信託に関する権利の評価については、相続税法基本通達上で具体的に定めがありますが、その内容は次の通りです。
9の3−1
受益者連続信託に関する権利の価額は、例えば、次の場合には、次に掲げる価額となることに留意する。
(1)受益者連続信託に関する権利の全部を適正な対価を負担せず取得した場合
信託財産の全部の価額
(2)受益者連続信託で、かつ、受益権が複層化された信託に関する収益受益権の全部を適正な対価を負担せず取得した場合
信託財産の全部の価額
(3)受益権が複層化された受益者連続信託に関する元本受益権の全部を適正な対価を負担せず取得した場合(当該元本受益権に対応する収益受益権について相続税法第9条の3第1項但書の適用がある場合又は当該収益受益権の全部若しくは一部の受益者等が存しない場合を除く。)
(注)相続税法第9条の3の規定の適用により、(2)又は(3)の受益権が複層化された受益者連続信託の元本受益権は、価値を有しないとみなされることから、相続税又は贈与税の課税関係は生じない。ただし、当該信託が終了した場合において、当該元本受益権を有する者が、当該信託の残余財産を取得したときは、相続税法第9条の2第4項の規定の適用があることに留意する。
つまり、信託受益権が収益受益権と元本受益権に分けられていない場合、(1)では課税の対象となるのは信託受益全部の価額ということになります。これについては他の信託同様で、特にわかりにくいことはないでしょう。
しかし、収益受益権と元本受益権に分けられている場合には、通常の信託とは扱いが異なることになります。通常の信託で収益受益権と元本受益権に分けた場合には、それぞれの課税の対象となる価額を減らすことができ、節税につながります。ところが、受益者連続信託ではそれができないことになります。
さらに受益者が個人、法人で扱いが違うこともあり、受益者連続信託を利用する場合には、信託受益権を質的に分割する方法では問題が多岐にわたり、かつ複雑でもあるため、実際に受益者連続信託を利用する場合には、法律だけでなく、税理士等の専門家にもよく相談しておく必要があるでしょう。
【図表 受益者連続信託の課税】
【POINT】
① 信託受益権を分割せずに相続した場合には信託財産の価額の全部が相続税の課税対象となる
② 信託受益権を収益受益権と元本収益権とに分割した場合には、収益受益権は信託財産全部の価額として相続税の対象となる
③ 信託受益権を収益受益権と元本収益権とに分割した場合には、元本受益権は課税されない