日本でも「ESG」の視点を取り入れた機関投資家が増加
ESG投資とは、投資先企業の環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとったESG要因を考慮する投資のことを示し、欧米を中心に世界的に広がりを見せている。
日本においてもESG投資は拡大傾向にあり、中長期的な投資を行う上で、今後もESGインテグレーション※の流れは加速していくことが予想される(参照:「ESGインテグレーション」と「フェアバリュー算出の限界」の視点を踏まえたロングショート戦略 )。
※ESGインテグレーション:投資判断において、伝統的な投資判断指標である財務情報に加えて、環境・社会・企業統治などの企業の「ESG」に関する取り組みを「非財務情報」として組み込み、総合的に企業を評価・判断する投資手法
ESGインテグレーションの浸透により、年金を中心とした機関投資家の間では、以下の姿勢が強まっている。
① 業績評価の軸を中長期へシフト
(例:EPSの評価を1~2年から3~5年へまたは10年以上へ拡大)
② サプライチェーン、特許、環境リスクなどの分析を強化
③ 業界動向とともに個別企業の歴史・文化・組織などに注目
④ 企業との対話(エンゲージメント)を重視
ここでは、③を中心に、ESGの「S(社会)」の部分、特に組織と関わりの深い「人材戦略」について取り上げたい。
日本企業は「経営戦略」と「人材戦略」の連動性が低い
ジョブ型雇用への注目が一段と高まりつつあるなかで、中長期の「企業競争力の源泉」の一つとして、専門人材を活かせる企業戦略をしっかりと実施できているかの視点は、ロングオンリーの機関投資家だけでなく、「ロングショート戦略」を駆使するヘッジファンドにおいても注目点となってきている。
2020年9月に経済産業省から公表された「人材版伊藤レポート(「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」)」では、ジョブ型雇用も含め、専門人材を活かせる人材戦略が日本企業に定着していけば、賃金・給与と生産性の上昇が同時に起きる好循環がもたらされることも期待できると提言している。少し「人材版伊藤レポート」について解説しよう。
■「人材版伊藤レポート」
人材版伊藤レポートは、企業の競争力の源泉が人材となっているなか、人材の「材」は「財」であるという認識のもと、持続的な企業価値の向上と「人的資本(Human Capital)」について議論したものである。以下のような形で日本企業の問題点を列挙し、投資家および企業経営・担当者と問題意識を共有している。
持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である。一方、企業や個人を取り巻く変革のスピードが増すなかで、目指すべきビジネスモデルや経営戦略と、足元の人材及び人材戦略のギャップが大きくなってきている。このギャップをどのような時間軸でいかに適合させていくかが、大きな経営課題となっている。
新型コロナウイルスの感染拡大及びこの対応により、このような課題が一層、明確になってきている。企業の人材戦略には、このギャップを適合させ、新たなビジネスモデルや経営戦略を展開させ、持続的な企業価値の向上につなげていくことが求められる。
「伊藤レポート2.0(2017年10月に経済産業省が公開した「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会報告書」でROE8%超えを目指すROE経営を後押し)」でも示されたように、米国S&P500の市場価値のなかで、有形資産が占める割合が年々少なくなっている。それと共に、1990年代後半から米国企業における無形資産への投資額(付加価値総額に占める割合)が有形資産への投資額を上回り、その差が広がっている。
また、ESG要因のなかでも、特に「S要因」が企業価値に密接に結びついており、S要因のレーティングが高い企業は、株価パフォーマンスも高いというデータもある。
人的資本を含む無形資産が企業価値の源泉となるなか、経営における人材や人材戦略の重要性はこれまで以上に増しており、国内外の経営トップも経営上重要な人材の確保等を重要なアジェンダと認識している。
一方、日本企業の多くは、変化への対応の必要性や危機意識は共有しつつも、経営戦略に紐付いた人材戦略を効果的に実施できていないという現実もある。新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、社会全体が「新たな日常(ニューノーマル)」を模索している今、変化に対してスピード感をもって対応していく企業と変化に踏み出せない企業とでは労働市場や資本市場において差別化されていく可能性が高い。
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