(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、「ESGインテグレーション」と「フェアバリューの算出・活用の限界」の視点を踏まえたヘッジファンドのロングショート戦略について考えます。

「非財務情報」を企業の評価・判断基準とする投資手法

「ESGインテグレーション」とは、投資判断において、伝統的な投資判断指標である財務情報に加えて、環境・社会・企業統治などの企業の「ESG」に関する取り組みを「非財務情報」として組み込み、総合的に企業を評価・判断する投資手法を指す。

 

世界的なESG投資の拡大に伴い、年金や投信など機関投資家を中心に、このESGインテグレーションの適用が進んでいる。このようなESGインテグレーションの進展により、次のような姿勢が機関投資家のなかでもたらされてきていると言える。

 

【ESGインテグレーションが機関投資家にもたらした変化】
① 業績評価の軸を中長期へシフト
(例:EPSの評価を1~2年から3~5年へまたは10年以上へ拡大)
② サプライチェーン、特許、環境リスクなどの分析を強化
③ 業界動向とともに個別企業の歴史・文化・組織などに注目
④ 企業との対話(エンゲージメント)を重視

 

ESGインテグレーションに基づく投資プロセスとして、概ね個別企業の業界・事業環境、企業戦略の評価、中長期の業績予想分析を実施した上で、ESG要因を考慮した企業価値をベースに投資判断を行い、ポートフォリオを構築する。

 

たとえば、公開情報に基づく外部機関による「ESGスコア」や、各運用機関のアナリストやファンドマネージャーによる独自調査によって取得したESG項目の集計に基づき、ESGの定量評価を決定する。

 

次に、そのESGの定量評価を活用して、バリュエーション基準(資本コストやPER、PBRなどのプレミアム/ディスカウント)を導き出し、企業価値の評価モデル(たとえばエクイティ・スプレッドモデル)に適用し、最終的な企業価値を算出し、それに基づきポートフォリオを構築するプロセスを経るといった具合だ。

 

企業の理論株価について取り上げると、従来は概ね1~2年先の業績予想を行い、過去平均や業界平均などをベースにPERやPBRを乗じて算出してきたが、ESGの視点を取り込むことによって、最低でも5~10年程度の長期の業績予想を行い、株価のフェアバリュー(適正価格)を算出する手法を用いるアナリストやファンドマネージャーが増加している。

 

このような「非財務情報」を分析するプロセス・手法が増加することにより、従来の「財務情報」のみをベースとしたファンダメンタルズ派の市場への影響力が、時間の経過とともに一段と低下する可能性がある。

 

そもそも、従来の「財務情報」に基づく分析は、フェアバリューの算出・活用に限界があった。さらに、時間軸の長期化による業績価値の変化や、ESG要因によるバリュエーション面の変化がもたらされることで、市場の均衡値が変化し、従来のファンダメンタルズ派が算出する理論値から恒常的に価格が乖離して推移することも考えられる。

 

その場合は、従来のファンダメンタルズ派の投資パフォーマンスの低下を通じて自然淘汰が起こり、財務情報に基づく市場の影響力が一段と低下することが予想される。言い換えると、ESGインテグレーションのような非財務情報に基づく投資手法の影響力が高まることが予想される。

 

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このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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