「自動的には長男の妻と子に渡らない」どうしたら?
この実例をもとに考えたいのは、遺言者より先に亡くなった長男に渡すと書かれている土地建物や預貯金の行方です。
勘違いする人が非常に多いのですが、原則として遺言者より先に遺言者の長男が亡くなったからといって、長男に渡す予定だった財産が自動的に長男の妻や息子(遺言者の孫)に渡るわけではありません。
遺言書で財産を渡す予定であった相手が遺言者よりも先に亡くなった場合、亡くなった人へ渡すと書かれた財産は、原則として、「遺言書に書かれていなかった」のと同じ状態になるのです。
この例で言えば、まず二男に渡すと記載のある部分の預貯金はそのまま二男に渡ります。そして、亡くなった長男に渡すと書いた土地建物と預貯金のうち2000万円は、二男と、長男の代わりに相続人になる長男の息子(遺言者の孫)とで話し合い、どちらがどの財産をもらうのかを決めなければならないのです。
この事例は、そもそも長男と二男の関係がよくありません。この状態で話し合えば争いになる可能性が高いでしょう。悲しみに追い打ちをかける事態です。
遺言者の立場からすれば、自分よりも先に自分の子が亡くなってしまうことなど想像もしたくないことかと思います。しかし、問題のない遺言書をつくるにあたっては、このような「万が一」に備えた記載が不可欠です。
では、具体的にどうすればよかったのでしょうか。
たとえば、本例の記載に加えて、遺言書のなかに、次のような記載を入れておくことが考えられます。
第○条 遺言者の死亡以前に乙田信夫が死亡したときは、乙田信夫に相続させるとした財産は、乙田信夫の長男 乙田悟 に相続させる。
第○条 遺言者の死亡以前に乙田良夫が死亡した時は、乙田良夫に相続させるとした財産は、乙田良夫の長女 乙田京子 に相続させる。
このように、財産を渡すと書いた相手が遺言者より先に死亡した場合に備えて、次の候補者を定めておく記載を、「予備遺言」と言います。このような記載があれば、遺言者より先に長男が亡くなってしまった場合にも、長男に相続させるとした財産は宙に浮くことはなく、孫に相続させることができるのです。
相続が起きる順番は、一般的には年齢順や世代順になることが多いとはいえ、正確な順序など誰にも予測できません。
遺言書を書くタイミングでは、「まさか自分より先に息子が亡くなるなんて、あり得ないだろう」と思うのが自然かもしれませんが、念のために予備遺言の条項を入れておくことをお勧めします。