部下の「こんな様子」はメンタル不調のサインかも
【ラインによるケア】
ラインによるケアは部長・課長などの管理監督者が、「いつもとは違う」部下の様子にいち早く気づき、相談を受けたり、職場の環境を改善したりする対応です。
部長・課長などの管理監督者には、社長などの経営層から従業員に対して指揮・命令をする権限が与えられています。これに基づき、部下に指示をして業務を遂行します。そして、結果によって部下の評価もします。
管理監督者には部下の健康に配慮する役割も求められています。そのためには、部下の健康状態を把握する必要があります。
部下の健康状態を把握する上で大切なのは、管理監督者が部下をよく観察して、いつもと違う様子であれば、早く気づくようにすることです。日頃から部下の行動パターンや人間関係のもち方に気を配っておきましょう。
いつもと違う様子は、部下によって異なりますが、たとえば次のような行動が挙げられます。
●遅刻、早退、欠勤が増える
●休みの連絡がない(無断欠勤がある)
●残業、休日出勤が不釣合いに増える
●仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
●業務の結果がなかなか出てこない
●報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
●表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
●不自然な言動が目立つ
●ミスや事故が目立つ
●服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
部下にいつもと違う様子が見られたときには、管理監督者はなんらかの対応をしなければなりません。その背後に病気が隠れていることもあるので、まずはそれを確認しなければならないのです。
病気かどうかの判断は、専門的な知識が必要です。一般的には産業医などの仕事になります。管理監督者は部下の話をよく聞き、産業医への相談を勧めたり、管理監督者が産業医に相談することが望まれます。
上司に求められる「話の聞き方」
健康問題にかかわらず、管理監督者は日頃から部下の話に耳を傾けなければなりません。部下の話をじっくりと聞くことを「傾聴」と呼びます。とくに「積極的傾聴」は、相手の話を聞く技法の一つとして知られています。
もともと「積極的傾聴」は、米国の心理学者であるカール・ロジャーズ氏が提唱したものです。ロジャーズ氏は、自らが行ったカウンセリング事例を分析し、カウンセリングが有効だった事例の共通点を探り、聞く側の3要素をまとめました。それは「共感的理解」、「無条件の肯定的関心」、「自己一致」です。
「共感的理解」は相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとするものです。
「無条件の肯定的関心」は相手の話を聞く際に、善悪の評価や好き嫌いを入れないことです。相手の話を否定せず、なぜそのように考えたのか、肯定的な関心をもってきくことです。それにより、相手は安心して話をすることができます。
「自己一致」は、話が分かりにくい際には、聞き手が話し手に分かりにくいことを伝えて、真意を確認することです。分からないことをそのままにしておくのはよくありません。
管理監督者が積極的傾聴など適切な対応ができるようにするために、経営層は管理監督者に技術を習得する機会を与えることが重要です。
部下に産業医への相談を勧めても、抵抗を示す場合もあります。その理由は「人に悩みを相談することに抵抗がある」、「周囲から変な目で見られるかもしれない」、「忙しい管理監督者に迷惑をかけたくない」など、さまざまです。
その場合は、強制せずに「代わりに私が相談に行ってくるよ」など本人に伝えた上で、管理監督者が産業医などの専門家に直接相談し、対処法についてアドバイスを受けるといいでしょう。
ラインによるケアを実施する際、管理監督者は、部下の健康情報を含む個人情報を保護しなければなりません。情報の収集・管理・使用に際しては本人の同意を得ることが法令によって原則とされています。
富田 崇由
セイルズ産業医事務所
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