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「社会が悪い」…残された滞納額は家主が背負うことに
難航すると思われた物件探しは、新井さんのおかげで小さいながらも部屋を確保することができました。幸代さん家族が住んでいた戸建ては、古いながらもそれなりのスペースがあります。結局全体の6分の5ほどの家財を処分。身の回りの物だけを持っての引っ越しとなりました。
作業の最中、幸代さんはすべてをサポートしてもらっていても「ありがとう」の言葉は一言もなく、ただ追い出されることに文句を言っています。長年の家賃滞納も「社会が悪い」から。年齢もあるとは言え、荷物の整理もすべて新井さん任せ。ともすれば「もっと幸代さんも荷造り頑張って」、そう言いたくなる私に対して、新井さんはどこまでも優しい声で「これは持っていく? いいの? じゃ、処分しましょうね」と優しいのです。
高齢者を相手にするときには、ここまで気長に優しく接することが求められるのでしょうか。「仕事だから」では決して対応しきれないほど、優しく強い精神力が必要だと感じました。
今の世の中、度重なる虐待などの事件が発生しています。今後高齢者の人数が増加し、介護の手が回らなくなってきたとき、人は心の余裕を失わずに対応することができるのでしょうか。新井さんを見ていて、少しそんなことを考えてしまいました。
幸代さんと息子さんは、新井さん始めNPOの方々のおかげで無事に新居に引っ越ししていくことができました。中断してもらっていた訴訟は取り下げ、一件落着です。
ただ最後の最後まで、息子さんとは会えず心の病の難しさも感じました。そして残された滞納額も、大量の荷物の処分費用も、幸代さん親子に支払える訳がなく、家主が背負うことになります。この先増えるであろうこの問題。ビジネスとはいえ、家主はどうやって保身していけばいいのでしょうか。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士