「1~2週間続く痛み」や「症状の再発」は限界のサイン
よく指をポキポキ鳴らす人を見かけますが、ひざを曲げたときにもポキポキと音がしたり違和感があったとしても、人が気にすることはほとんどありません。たまに痛みが出たとしても、「ひざをどこかにぶつけたかな」とか「ひざを捻ったのかな」と思い、市販の痛み止めを飲んだり湿布を貼って様子をみています。
そのうちに、頻繁にひざが痛むようになってきます。日中の動作だけではなく、夜間に寝ていても痛くて眠れなくなるなど、それまで使用していた市販薬では治まらない状態が続くと、さすがに「おかしい」と思って受診する患者さんを多く見かけます。特に高齢者の場合は我慢強い人が多く、40歳以降のひざ痛に最も多い「変形性膝関節症」では、進行期や末期になってから受診するケースも少なくありません。
しかし、痛みが1~2週間続いたり、ひざが腫れてきたり、しばらく様子を見て1度は良くなったのに再び痛くなり、それを繰り返すようになったりしたときは、それ以上放置せずに整形外科専門医を受診してください。
また、階段の上り下りがつらい、正座ができなくなったなど、日常生活で今まで感じたことのない症状が現れた場合も、受診のタイミングといえます。
ひざ疾患を正確に診断・対処できるのは医療機関だけ
なかには医療機関ではなく、接骨院や整骨院といった治療院に行かれる人がいます。変形性膝関節症の場合は、確かに治療院でも外見的にある程度の判断がつきますが、同じ症状でも別の病気の可能性は否定できません。それを判断するにはレントゲンなどの検査が必要となり、確定診断を下せるのは医師だけなのです。初期の対応を間違えると、症状を進行させてしまう危険があるため、きちんと診断を受けるうえでも医療機関を受診することをお勧めします。
受診する際のポイントは、どのようなときに困っているのか、何をするときに痛みが出るのかを具体的にメモしていくこと。意外なことに、ひざが痛いと訴えはするものの具体的なことは分からずに受診される方も多くいます。どのようなときに痛いのかを自覚していないまま治療を行っても、満足のいく効果は得られません。何をするとき、どのような動きをするとき、どこが痛いのかを覚えておきましょう。
事前に「問診で聞かれること」を知っておくとスムーズ
中高年や肥満ぎみの人がひざ痛を訴えたときには、多くの場合で変形性膝関節症の可能性が高いのですが、それ以外にも半月板損傷や関節リウマチ、感染症などもあります。生命に関わる重大な病気にかかっているかもしれませんので、年齢や体型などで判断することなく、正確に病気を特定するうえでも検査はとても重要です。
患者さんが受診すると、医師はまず問診・視診・触診・X線検査を行ってひざの状態を把握します。そして、必要に応じてMRI検査、血液検査、関節液検査を行います。これらの検査結果から病気を特定して診断を下し、治療を始めることとなります。
【問診】
ひざの痛みについて、いつから現れたのか、原因に思い当たることはないかなど症状に関すること、また薬を服用しているか、ヒアルロン酸などの注射を受けたことがあるかといった治療に関することをお聞きします。具体的には次のような質問をされますので、あらかじめ思い返しておくと良いでしょう。
なお、医師の質問に対して分からないことは、正直に「分かりません」と答えてください。無理にこじつけた答えをすると、診断を誤る原因になるからです。
●どこが痛みますか
●いつから痛みますか
●どんなときに痛みますか
●何かスポーツをしていますか。過去にしていましたか
●寝ているときに痛みますか
●痛み止めを飲んでいますか
●ひざに鍼や注射を打ってもらったことがありますか
●若い頃より体重は増えていますか
【視診と触診】
問診が終わると膝関節の変形やひざの腫れなどを、実際に患部を見て確認したり、直接触れて圧痛(あっつう〔押すと感じる痛み〕)があるか、ひざに水が溜まっていないか、可動域はどれくらいかなどを確認します。
診断に不可欠な「X線検査」は医療機関でしか行えない
【X線(レントゲン)検査】
整形外科の診療においてX線検査は基本的なものであり、ほとんどのケースで行われます。X線は放射線の一種で、物質を透過したり吸収されるという性質があり、これを利用して撮影しています。
X線撮影では、仰向けに寝た状態と立った状態との2種類の写真を撮ります。特に立った状態は、普段の生活で立ったり歩いたりしたときにどれくらいひざに荷重がかかっているかというひざの状態を反映していますので、診断するうえでは大事な情報となります。
逆に、寝た状態ではひざに体重がかかっていないため、意外と骨と骨の隙間が空いていることがあり、正確な診断がつかないこともあります。ですから変形性膝関節症の診断には立った状態でのX線撮影が必要となります。
X線写真にはっきり写るのは骨だけですが、大腿骨と脛骨がぶつかり合うという変形性膝関節症の特性上、骨の状態を見るのはとても重要なことです。主に骨の変形や骨棘、大腿骨と脛骨の隙間を確認するのが目的です。
正常な膝関節は、大腿骨と脛骨の間に6~8ミリの隙間がありますが、変形性膝関節症になると隙間が狭く写ります。
ちなみに、同じX線を使って断層撮影しているのがCTです。CTは「コンピューテッド・トモグラフィ(Computed Tomography)」の略で、日本語では「コンピュータ断層撮影」といいます。CT検査の場合は、検出器を体の回りに一周させ、いろいろな角度からX線を照射して透過したX線量の違いを検出し、その割合をコンピュータで計算して画像にしています。CTもX線ですから骨以外の組織の撮影には不向きなうえ、レントゲン検査よりも被ばく量が多くなることから変形性膝関節症の診断ではあまり使用しません。
ただし、手術する場合は、より詳しく評価するために3次元CTなどを用いることがあります。
まだまだある…必要に応じて行われる検査
【MRI検査】
X線検査やCT検査では骨の状態は確認できますが、軟骨や半月板、靭帯の状態は確認できません。患者さんのなかには、膝関節の変形が見られないのに痛みを強く感じることがあります。そういう場合は半月板や靭帯を損傷しているなど、変形性膝関節症とは別の病気の可能性が考えられます。
そこで、さらに詳しく調べるときに行うのがMRI検査です。MRIは、「マグネティック・レゾナンス・イメージング(Magnetic Resonance Imaging)」の略で、日本語では「核磁気共鳴画像法」といいます。文字通りMRIの場合は、強力な磁気を発生させ、それを人体に当てて磁力によって体内の水分を測定し、内部の状態をコンピュータで画像化しています。
これによりX線検査では分からなかった軟骨や半月板、靭帯、筋肉などの様子を見ることができますので、ひざの外傷、半月板損傷、腫瘍、壊死、炎症、浮腫の状態などを知るうえで欠かせない検査となります。
【血液検査】
血管から採血を行う検査で、化膿性膝関節炎、関節リウマチ、痛風など、変形性膝関節症とは別の病気が疑われる場合に調べます。
【関節液検査】
ひざに熱をもっていたり腫れていたりして細菌感染などが疑われるときは、注射器で関節液を抜いて調べます。関節液検査では、関節液の量・色・血球の数、そのほか含まれる組織や成分を分析します。これによって炎症の程度や病名を診断することができます。
正常な関節液は無色透明で粘性があり、量も少ないので抜き取るのは困難ですが、ひざに炎症が起きていると関節液の量が増えるので採取することができます。関節液の色も、炎症が強くなると白や緑白色、褐色などに濁ってきます。これは、関節液に含まれる白血球やリンパ液が、光を乱反射させるために色がついて見えるからです。
この検査も、関節リウマチ、痛風、化膿性関節炎、結晶性関節炎、色素性絨毛結節性滑膜炎(しきそせいじゅうもうけっせつせいかくまくえん)など、変形性膝関節症とは別の病気が疑われるときに行います。
このようにひざ疾患の診断には、いろいろな検査を行って総合的に判断しています。
松田 芳和
まつだ整形外科クリニック 院長
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