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「ひざの痛み」を手術以外で治す…次世代の治療法
変形性膝関節症や半月板損傷といったひざ疾患は、基本的には痛みの原因となる炎症を抑えたり、膝関節への負荷を軽減するなどして進行を食い止める治療が主体となる「保存的治療」が中心となります。これを「第1の治療」とするなら、これらで改善が見込めない場合に行うのが「第2の治療」としての手術です。
これまでは効果が実感できない保存的治療を続け、どうにもならない末期になるといよいよ人工膝関節置換術を受けるという選択肢しかありませんでした。患者さんにしてみれば、なかなか痛みが治まらない、あるいは日常生活に支障をきたすからといっても、大がかりな手術を受けるにはあまりにもハードルが高く、そう簡単には受ける決断を下せるものではありません。
ひざに人工物を入れることに抵抗感や不安感を抱いている人がいれば、約1ヵ月に及ぶ入院生活と術後のリハビリを考えると仕事を休めない、配偶者の介護があって手術を受けられる状況ではないという人もいます。また、高齢であったり内臓疾患があったりして手術を受けるにはリスクが高いなど、さまざまな事情を抱えた患者さんがいるのが現状です。
こうしたことから本来なら手術の適応となる患者さんのなかには、改善が見込めないにもかかわらず保存的治療を続けているケースが少なくありません。これは、長年にわたって人工膝関節置換術を専門に行ってきた私にとって、悩ましい大きな問題でした。
この問題を解決すべく「第3の治療」として登場したのが、これから紹介する「再生医療」です。再生医療は、いうなれば保存的治療と外科的治療の間を補う位置づけとなる最新の治療法となります。
これによって保存的治療では効果がなかった場合でも、手術以外の新たな選択肢を見いだせるようになりました。
日本再生医療学会のウェブサイトにも「『再生医療』とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞や人工的な材料を積極的に利用して、損なわれた機能の再生を図るものです。これまで治療法のなかったケガや病気に対して、新しい医療をもたらす可能性があります。(一部抜粋)」と記載されています(※1)。
人間には自然治癒力という自分の組織を再生する力が備わっていますが、この再生する力を利用して病気やケガの治癒を目指すのが再生医療なのです。
例えば、自分の体から幹細胞という特殊な細胞を取り出して増やし、目的とする組織や臓器などにしてから元の体に移植したりします。最近では、iPS細胞を使った再生医療にも注目が集まっており、根本的な治療になり得る可能性があるとして注目されています。
ただし、最新の治療法であるがゆえに厳しく規制されています。厚生労働省のホームページには「これまで有効な治療法のなかった疾患の治療ができるようになるなど、国民の期待が高い一方、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供する必要があります。このため、平成26(2014)年11月に『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』と併せて、『再生医療等の安全性の確保等に関する法律』を施行し、再生医療等の安全性の確保に関する手続きや細胞培養加工の外部委託のルール等を定めました(一部抜粋)」としています(※2)。
したがって、再生医療は厚生労働省に届け出が必要となり、認可を受けた医療機関でしか行えない、「高い安全性が確保された治療」となっています。
現在、さまざまな医療分野で再生医療が行われており、整形外科も例外ではありません。特にひざ疾患においては、痛みを緩和して機能の改善を図る目的で活用されるようになりました。
※1 日本再生医療学会「再生医療とは」
※2 厚生労働省「再生医療について」