(※写真はイメージです/PIXTA)

さまざまな医療分野で「再生医療」が行われるようになった昨今。加齢に伴い誰もが実感する「ひざの痛み」にも、痛みを緩和して機能の改善を図る目的で活用されるようになりました。その1つが、患者さんの血液から血小板を多く含んだPRP(多血小板血漿)を抽出し、患部に注射するという「PRP療法」。血小板の“組織の修復を促す「成長因子」を出す”という働きによって、炎症や痛みの改善を試みる治療方法です。どれだけの治療効果が期待できるのでしょうか?

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組織の修復を促す「成長因子」で治療促進

PRP療法には抽出する成分によって、白血球をあまり含んでいない「LP-PRP」(Lは“白血球”を意味するルーコサイト、Pは“少ない”を意味するプア)、白血球を豊富に含んだ「LR-PRP」(Rは“多い”を意味するリッチ)、PRPをさらに濃縮させて特別な成分を高濃度に含んだ「APS」(自己タンパク質溶液)などがあります。これらは液状のため保存期間が短いうえ、成分に細胞が含まれているので再生医療法により認められた医療機関でしか取り扱えません。

 

これらに対して細胞成分を含まず成長因子のみを抽出し、凍結乾燥(フリーズドライ)した「PFC-FD」(血小板由来因子濃縮物)というものもあります。

 

細胞成分を含んだPRPを、さらに活性化させて自己修復機能を促す血小板由来の成長因子(特定の細胞の成長や増殖を促進するタンパク質の総称)だけを効率的に抽出した「PFC-FD」には、成長因子の総量がPRP療法の約2倍も含まれています。またPFC-FDはフリーズドライ加工されているため、治療に使用する際には生理食塩水で溶かしたあと、患者さんの膝関節内に注射するようになります。

 

[図表1]PFC-FD療法の特徴

 

成長因子には、血管新生や細胞増殖を促進するPDGF、線維芽細胞(せんいがさいぼう)やコラーゲンの合成を促進して傷の治癒を促すTGF-β、筋細胞の増殖と血管新生を促進するFGF、幹細胞の増殖・分化・ほかの成長因子の効果を増強させるEGFなど、役割の異なるさまざまな種類が含まれています。これらの働きによって組織の修復作用を高めます。

 

PFC-FD療法はフリーズドライ加工していることで室温保存が可能なため、例えばスポーツ選手が海外遠征をする際、帯同する医師が選手のPFC-FDを持参していけば、ケガをしたときに速やかに注射ができるなど、使いやすい点もメリットとなっています。

初期~中期までのひざ疾患なら、治療効果は70%

私のクリニックでは2018年10月よりPFC-FD療法を導入し、現在まで400人以上の患者さんに行ってきました。1年以上経過した治療成績を2020年JOSKAS-JOSSM2020/第12回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会/第46回日本整形外科スポーツ医学会学術集会において講演しましたので、そのデータをもとにPFC-FD療法の治療効果について紹介していきます(図表2、3)。

 

[図表2]PFC-FD療法の症例①

 

[図表3]PFC-FD療法の症例②

 

PFC-FD療法による痛みの評価では、注射後早期(1週間)から効果が現れ始め、1ヵ月で半減し、その状態は1年後も継続していました(図表3)。また、注射後の痛みや腫れはほとんど見られず、私のクリニックでは投与後の副反応の発生率が1%以下だったこともメリットといえます。これは、ほとんどの患者さんにとって良い適応になるのではないでしょうか。

 

国際的に使用されている「KOOS」(クース)という効果判定基準に則った評価でも全体的に改善していたことが明らかになりました。これは、主にひざの曲げ伸ばしの程度をみる「症状(Symptoms)」、どんなときにどの程度つらいかを示す「痛み(Pain)」、歩行や家事・車の乗り降り・入浴など普段の生活がどの程度できるかをみる「日常生活動作(ADL)」、走りやジャンプなどより高い活動性があるかをみる「スポーツとレクリエーション活動(Spo & Rec)」、ひざの困り具合をみる「生活の質(QOL)」の5つの項目について詳しく患者さんに訊ね、その回答結果を数値化したものです。点数が高ければ高いほど、良い状態であることを示しています。

 

KOOSにおける評価でも、治療前に比べてすべての項目で改善していたことが明らかになりました。例えば、患者さんが最も難儀している階段の上り下りの際に手すりを使わなくなったとか、立ち上がりがラクになったという声が大きく聞かれました。また、高齢者では杖を使わずに外出ができるようになったと喜ぶ声も多かったです。これは、PFC-FDの組織修復因子が機能していると考えられます。PFC-FDには抗炎症作用がありますが、組織修復作用がより強いのが特徴と思われます。

 

変形性膝関節症の患者さんには、MRIによる所見でBML(Bone Marrow Lesion)という骨髄浮腫像(こつずいふしゅぞう)がたびたび見られます。骨髄浮腫は骨髄の内部に炎症が起こった状態をいうため、これが見られたということは骨髄内で炎症や微小出血、線維化などが生じていると考えられます。

 

ところが、PFC-FDの治療後には骨髄浮腫像が縮小したり、ときには消失するケースが見られるのです。これは、APS療法ではあまり見られない現象のため、組織修復作用はPFC-FDの大きな特徴といえるでしょう。

 

ただ、関節症の度合いが進行したケースほど効果は落ちてきます。初期から中期までは70%の効果が期待できますが、末期になると50~60%程度と低下することからも、やはり進行する前の早い段階での治療がより理想的と思われます。

 

また、私どもの研究では、内反変形や外反変形が高度であったり、血小板数が少ないと効果が低くなる傾向にあることが分かっています。

 

〈PFC-FDのDATA〉

■精製方法:患者さんから採血(1部位につき約50mL)し、採取した血液を専門機関へ配送してPFC-FDに加工(約3週間)。その後、加工されたPFC-FDが医療機関に届き、使用する際には生理食塩水などで溶解したあと、患者さんの関節内に注射。なお、肝炎ウイルスやエイズウイルスなどに罹患している場合は、本療法での治療はできません。

■主な構成:成長因子(PDGF、TGF-β、FGF、EGFなど)

■特徴:凍結乾燥化することで常温保存が可能(約6ヵ月間)。

 

 

松田 芳和

まつだ整形外科クリニック 院長

 

 

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※本連載は、松田芳和氏の著書『ひざ革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

ひざ革命 最期まで元気な歩行を可能にする再生医療

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松田 芳和

幻冬舎メディアコンサルティング

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