アメリカに資産を保有する方が亡くなった場合、「プロベート」という、煩瑣かつ相当な費用と時間が求められる手続を経て、資産の所有権移転を行う必要があります。しかし、不動産は「TODD」、預貯金は「POD」といった制度を活用することで、手続きを簡便にすることが可能です。具体的な方法と利用時の注意点を、国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。
TODDは、遺産税まで免除してくれるものではない
アメリカに資産を保有する人が亡くなった際、その遺産分配のために「プロベート」という手続が必要になります。しかし、不動産についてはプロベートを回避する手段として、「TODD」を活用する方法があるということを、前回の記事でご紹介しました(『アメリカ不動産オーナー必見!相続時の所有権譲渡を容易にする「TODD」とは?』参照)。
このTODDですが、相談を受けたときにいちばん多く寄せられる質問が、
「これでアメリカの遺産税(相続税)も支払う必要はありませんね?」
というものです。
残念ながら、その答えはNoです。TODDは煩雑なプロベートを経る必要なく、あらかじめ指定した受取人に所有権の移転を可能にする制度です。しかし、その相続にかかる遺産税まで免除してくれるものではありません。
TODDと遺産税は無関係、とぜひ覚えてください。以前執筆した記事、『アメリカ在住の親族が死亡…現地の相続手続き「プロベート」における現地弁護士の報酬目安』でも述べたように、アメリカで遺産税を支払う義務が発生するかどうかは、日米租税条約の定めに従った控除額を計算して、慎重に判断するようにしましょう。
TODDは、アメリカ全州で使えない点にも注意
次に、TODDはアメリカ全州で使えるわけではありません。TODDが使える州と使えない州を以下まとめましたのでご参考ください。ちなみに、カリフォルニアでは、一時期TODDを廃止する議論が州政府で行われていましたが、最近、2032年までTODDが制度として存続することが決まりました。
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中村法律事務所 代表弁護士
ニューヨーク州弁護士
弁護士登録後、国際コンプライアンス案件を専門とする矢吹法律事務所に入所。8年以上に渡り、国際カルテル案件等に従事。
ニューヨーク州の弁護士資格を取得し、米国大手法律事務所Gibson, Dunn & Crutcher LLPのサンフランシスコオフィスに執務する。
2018年、中村法律事務所の開設後は、日系企業向けにアメリカ進出時の法的サポートを行うほか、製造業の海外販路拡大、飲食業の海外イベント出店、国際取引契約、クロスボーダーM&A、海外現地法人設立といった取引案件を担当。また、海外不動産トラブル交渉、海外の債務者への債権回収、アメリカ大使館での証人尋問といった紛争案件の代理も務める。最近は、英語対応できる日本法弁護士として、海外上場会社の日本法人向けにも多くのアドバイスを行っている。
個人向けには、海外資産を有したまま亡くなった時の国際相続を専門的に取り扱い、海外不動産を購入した日本人向けに海外口座解約を含む様々な手続きを受任。これまでアメリカの相続制度やその対応策に関するセミナー講師、執筆を多数行っている。
中村法律事務所(https://nakalaw.jp/)
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連載敏腕国際弁護士が解説!「アメリカ不動産オーナー」が知っておきたい法律基礎知識