プロベートの手続は、面倒なうえに時間がかかる
アメリカに資産を有したまま亡くなったときに適用されるアメリカの相続手続、プロベート。プロベートの費用が莫大になるリスクについては、拙稿『アメリカ在住の親族が死亡…現地の相続手続き「プロベート」における現地弁護士の報酬目安』で詳述しました。
しかしプロベートには非常に時間がかかるというさらなる問題もあります。裁判手続であり、現地弁護士の選任、裁判の期日設定、証拠書類の準備・翻訳、日本の相続人への説明・承諾…等々、やらなければいけないことが多岐にわたるのです。そのため、遺産が分割されて相続人の手元に渡るまで、通常1年半~2年間ほどかかってしまいます。
相続人が日本人の場合は、日本にはないプロベートという制度について説明・理解してもらうまでに、とくに時間がかかる印象です。アメリカの弁護士に日本語でプロベート手続を説明してもらうことはできませんから、きちんと日本語で説明できる弁護士を日本側でもつけておくといいでしょう。
また、遺産がアメリカの複数の州に点在する場合は、各州でプロベート申立が必要となり、それも時間がかかる要因です。
しかも、プロベート手続中は、遺産の処分・換価ができません。亡くなった方の病院費用や、葬式・身辺整理などで費用が掛かるとしても、遺産に含まれている不動産等を売却・現金化するといったことはできないのです。
「アメリカに銀行預金もあるから、アメリカで各種支払いが発生しても大丈夫」と高を括っている方。残念ながらその認識は正しくありません。不動産だけではなく、銀行預金もアメリカ所在の財産ですから、口座名義人が亡くなると、その口座もプロベートの対象となり、引き出し等ができなくなるのです。
このようにプロベートは、費用だけでなく時間もかかり、そしてその間は遺産の処分もできないという、いわば三重苦の状態に陥ってしまいます。
プロベートを回避できる「TODD(死亡時譲渡証書)」
そのためアメリカ不動産を購入される方は、プロベートを回避できる法的手続を、生前のうちから実行されておくことをお勧めします。
今回は、不動産についての「TODD(Transfer On Death Deed、死亡時譲渡証書)」を紹介します。
TODDは、不動産所有者の死亡時に、プロベートを経ることなく、あらかじめ指定した受取人(Beneficiary)に完全な所有権を譲渡できる制度です。このTODDの登記をすませれば、対象不動産はプロベートの適用はありません。よって、アメリカでは手続的な負担を免れることができ、あとは日本の相続法に従った相続手続を行えばよいということになります。つまり、アメリカに不動産を残して亡くなったとしても、日本で不動産を所有する場合と手続上の負担は変わらなくなるというメリットがあるのです。