※画像はイメージです/PIXTA

アメリカに資産を持つ人が亡くなった場合、遺産分配のために「プロベート」という手続が必要になります。しかし、弁護士費用をはじめとする様々なコストがかさむだけでなく、手続完了までに年単位の時間がかかるのを覚悟しなければなりません。しかし、アメリカに所有する不動産においては、生前対策で、この面倒な手続を回避することができます。国際法務に精通する中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

TODDの具体的な手続…5つのステップ

TODDは、以下のステップで手続をすませることができます。なんといっても、日本国内の手続だけで完了し、所有者自身がアメリカに行く必要がないのが利点です。海外への移動が難しいこのコロナ禍にあって、TODDはとても便利な制度であるといえます。

 

①TODDのフォームを取得します。フォームは、不動産の所在地を管轄するカウンティー(郡)のウェブサイトから問い合わせをすることで取得できる場合もありますし、それがない場合は弁護士に依頼をすることになります。

 

②フォームの記入をします。不動産所在地、所有者の情報、受取人の指定などを行います。のちに述べますが、この受取人指定は、所有者のご家族の個別具体的事情に応じて細かく行うことができ、所有者の思いを実現しやすい形になっています。

 

③記入したフォームについて、東京、大阪などにある在日アメリカ大使館、領事館で公証(Notarization)してもらいます。公証は、公証人(Notary Public)の面前で、記入した内容が正しいことを宣誓し、署名を行い、署名者の本人確認を行う手続です(フォームにある署名欄は、公証人から署名を要求されるまで空欄です)。公証のためには、事前にアメリカ大使館のウェブサイトで予約をとる必要があります。現在、新型コロナウィルス感染症の影響により予約がとりづらくなっていて、場合によっては3週間先になることもありますので、余裕をもって予約をして下さい。また、名古屋のアメリカ領事館は現在、領事業務を行っていませんので、大阪の領事館まで行く必要がありますのでご注意ください。

 

④公証が完了すると、フォームには公証人のスタンプなどが押されます。このフォームを、手数料も添えて、不動産所在地を管轄するカウンティーに郵送で提出をします。手数料はクレジットカードでは受け付けず、小切手(check)での支払いを求めるカウンティーが多い印象です。郵送方法ですが、最近ようやくEMSが再開しましたので、お近くの郵便局からEMSを使って郵送できます。

 

⑤1ヵ月程で登記が完了し、カウンティーから郵送で登記通知書が届きます。その後、所有者本人が亡くなった場合、受取人となっている方が宣誓供述書(Affidavit on death)を提出すれば所有権が移転されます。

 

以上が手続です。実費は公証、登記費用、郵送等で2万円程度です。手続のサポートで弁護士を起用する場合は、別途弁護士費用がかかります。

TODDの具体的なメリットとは?

まず、所有者本人が亡くなるまで譲渡の効力は生じません。生存中にTODDをキャンセルすることもでき、不動産を売ることもできます。一度TODDを登記したあとで受取人を変更することもできます。このように、所有者の意思を最後まで実現できる利点があります。

 

また、親族以外の人物を受取人に指定することも自由にできます。受取人を複数にもできます。さらに、受取人が所有者より先に亡くなったときに備えて、代わりの受取人(alternate beneficiary)を指定することもできます。このように、所有者の意思を柔軟に実現できるのがTODDの良さといえるでしょう。

 

TODDをすませておけば、プロベートになった場合に比べて、手続的な負担が軽減されるだけではなく、費用面でもメリットがあることがおわかりいただけたと思います。そして何より、遺族の方々が、煩雑なプロベートに長期間対応する必要がなくなりますので、TODDはまさに家族思いの制度といえるのではないでしょうか。

 

 

※こちらの原稿内容は執筆時点のものです。税務に関する法改正、制度変更等の最新情報は、アメリカの税務に詳しい税理士・会計士にご相談ください。

 

 

中村 優紀

中村法律事務所 代表弁護士

ニューヨーク州弁護士

 

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