「ファンダメンタルズアプローチ」の限界
一方で、ファンダメンタルズアプローチにも様々な限界があることも頭の片隅に入れて投資を行う必要があるのもまた事実だと考える。
たとえば、簡単な例を挙げよう。もし300円の株価がついている企業の理論株価と投資判断をファンダメンタルズアプローチで分析してほしいと4人の専門家のアナリストに頼んだとする。
Aのアナリストは、PER(株価収益率)アプローチを用い、理論株価=EPS×PERを計算した。EPS=25円、PER=20倍と見積もった結果、理論株価=500円(25円×20倍)となり、現在の株価と比べて割安であり、「買い」という判断を下した。
Bのアナリストは、同じくPER(株価収益率)アプローチを用い、理論株価=EPS×PERを計算した。EPS=25円、PER=10倍と見積もった結果、理論株価=250円(25円×10倍)となり、現在の株価と比べて割高であり、「売り」という判断を下した。
Cのアナリストは、PBR(株価純資産倍率)アプローチを用い、理論株価=BPS×PBRを計算した。BPS=250円、PBR=1倍と見積もった結果、理論株価=250円(250円×1倍)となり、現在の株価と比べて割高であり、「売り」という判断を下した。
Dのアナリストは、同じくPBR(株価純資産倍率)アプローチを用い、理論株価=BPS×PBRを計算した。BPS=250円、PBR=2倍と見積もった結果、理論株価=500円(250円×2倍)となり、現在の株価と比べて割安であり、「買い」という判断を下した。
A、B、C、Dの4人のアナリストの例でも分かるように、どのバリュエーション指標を活用するかで理論株価や投資判断が異なるし、またどのバリュエーション水準を用いるかで結果が180度異なることもある。
仮に、EPSやBPSの算定に違いが見られた場合は、さらに結論が異なる可能性が生じる。加えて、配当割引モデル、ディスカウント・キャッシュフローモデル、EV/EBITDA倍率など他のバリュエーションモデルで算出した場合、さらに結論が異なる可能性も出てくる。
■まとめ
モデルはロジックがあるものの、入力する変数のちょっとした違いで結論が大きく変わるファンダメンタルズ分析の限界などを理解することで、仮にファンダメンタルズアプローチを重視するヘッジファンド(ロングショート型なども含む)へ投資を行う場合、このような限界をどのように捉えて持続的なα(=投資の成果)獲得につなげていこうとしているのかの考え方をヒアリングすることも、デューデリジェンス(調査)においては重要であろう。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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