(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、ヘッジファンドが活用する代表的な分析手法である「ファンダメンタルアプローチ」と「テクニカルアプローチ」の違いについて見ていきます。

「ファンダメンタル」と「テクニカル」を用いた戦略

ヘッジファンド戦略は多様だが、ファンダメンタルアプローチとともにテクニカルアプローチを用いている戦略としては、主にグローバルマクロ戦略、CTA戦略、マーケットニュートラル戦略、ロングショート戦略などが挙げられる。ヘッジファンドごとに各アプローチの活用のウェイトは異なっているが、概ね各カテゴリーでも両戦略の組み合わせ(インテグレーション)が見られる。

 

以下では、ヘッジファンドが活用する代表的な分析手法としての「ファンダメンタルアプローチ」と「テクニカルアプローチ」の対比を取り上げる。

「ファンダメンタルアプローチ」の強みと弱み

ファンダメンタルアプローチ活用の強みと弱みを整理すると、次のようになる。

 

【ファンダメンタルアプローチの強み】

● バリュー価値算出プロセスに一貫性・客観性・再現性がある。
● 市場は長期にファンダメンタルズ価値に回帰する傾向があり、投資の基準(αの設定など)ができる。
● 大きなまたは長期のトレンドの変化の発生を予見・説明しやすい。
● 説明責任を果たしやすい。意思決定が透明・明確化できる。

 

【ファンダメンタルアプローチの弱み】

● 変化へのサイン・対応が遅い。
● バリュー価値算出に恣意性がある(パラメーター)。
 例①:今期、来期、またはその先の業績を織り込むのかでバリューが大きく変わる。
 例②:DCF法に基づく割引率を算出するための金利が1%違うと、また成長率が1%違うとバリューが大きく変わる。
 例③:PERは過去平均、市場平均、同業他社平均なのか、そこの水準からどれだけプレミアム、ディスカウントを付与するかでバリューが大きく異なる。
● 市場変動の波(バブル・モメンタムなどのポジティブフィードバック等)に対応できない。
● ファンダメンタルバリューに回帰しないバリュートラップに陥ることがある。
● 説明責任を重視し、相関より、因果に偏りすぎ。
● クオンツとして取り込み、平均回帰をベースに説明責任を構築していっているが、依然としてアノマリーの取り込みが弱い。

「テクニカルアプローチ」の強みと弱み

テクニカルアプローチ活用の強みと弱みを整理すると、次のようになる。

 

【テクニカルアプローチの強み】

● 変化へのサイン・対応が速い。
● 市場の波(変動)に柔軟に対応できる。
● シナリオビルディングに活用できる。
● 市場変動の説明要因の一つとして活用できる。
● ダウンサイドリスクへの対応に活用できる。
● 短期とともに中長期のタイミング売買に活用できる。

 

【テクニカルアプローチの弱み】

● 企業価値(バリュー)を加味しないため、投機での活用が見られる。
 例①:リスク・リターンに合わない天井圏でトレンドライン分析を活用した売買。
 例②:信用リスクを無視した売買。
● 企業価値を加味しないため、説明力が弱い(PERだけの動きの予想だけでは弱い)
● 異なる分析(オシレーターとトレンド分析)により、異なる売買サインが生じる場合があり、一貫性が生まれにくい。
● 用いる期間(短期、中期、長期)によって異なる売買サインが生じる場合があり、一貫性が生まれにくい。
● トレンドライン分析など、用いる投資家による裁量度が大きいため、分析に恣意性が生じやすい。
● ファンダメンタルズ面から生じる大きなまたは長期のトレンドの変化を説明しにくい。
● 結果(運用成績)を重視し、因果より、相関に偏りすぎ。

 

■まとめ

以上のように、両アプローチともに強みと弱みがあり、どちらのアプローチが正しい、もしくは間違っているかは、どのようなマーケット環境・タイミングで活用するかで異なってくるだろう。

 

投資するヘッジファンドが両アプローチを活用していた場合、①どういう場面でどちらのアプローチを使うのか、②どういう環境・タイミングで両アプローチを組み合わせるのか(インテグレーション戦略)、③その場合の各アプローチのウェイトをどのように決定するのか、の主な3点をデューデリジェンス(調査)時にヒアリングしておくことも重要だろう。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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