「伝統的ファイナンス理論」の仕組みと限界
オルタナティブ戦略の中心的役割を担うヘッジファンドには、多様な運用戦略がある。そして、数多くあるヘッジファンドのなかから有用な戦略を持つヘッジファンドを見極めるにあたっては、これまで世界中で投資・運用戦略のベースとなり、長い歴史を持つ「伝統的ファイナンス理論」の仕組みとその限界をしっかりと理解することが重要である。
ポートフォリオ理論を打ち立てたマーコウィッツ、資本資産評価モデル(CAPM)を提唱したシャープ、資本構成・配当政策の理論を構築したミラー、1997年には派生証券価格理論の発展に多大な功績を残したとしてショールズとマートンに、ノーベル経済学賞が授与された。
実は、これらの伝統的ファイナンス理論は、ファーマが1970年に提案した「効率的市場仮説」に基づいている。効率的市場仮説では、すべての金融情報は即座に市場全体に伝わり、完全に価格形成に反映されるとされている。
伝統的ファイナンス理論における合理的な投資行動は、「効用関数による期待効用最大化」の考え方に基づいている。効用関数とは、財の消費量とその財の消費によって得られる利益の満足度である効用との関係を示すものである。この理論では、現在の意思決定により達成される結果が複数あるとき、それらの期待効用を計算し、それが最大になるような意思決定をすることが最適であると考えている。
つまり、合理的な投資行動においては、意思決定は効用関数による期待効用最大化を前提にしているので、同じ投資目的に対しては、異なる状況でも選択肢の優先順位は変わらない。しかし、実際の投資家は効率的市場仮説で想定しているほど合理的な行動をとるわけではない。
たとえば、利益、収益とは無関係にお互いに株を持ち合っている機関投資家や上場企業がある。年金運用においても、政策アセットミックスを決定する際に、他社の投資見通しやポートフォリオ戦略を気にした決定をする事例もある。
また、ベンチマークとの乖離があまりない運用を行っているにもかかわらず、手数料が安いETFやインデックスファンドを避け、手数料の高いアクティブ運用に投資する行動などが挙げられる。これは、「効率的市場仮説」や「合理的投資家」においては想定されない投資行動といえる。
実際の市場では、効率的市場仮説に基づく伝統的ファイナンス理論では説明することができない現象(アノマリー)が多数見られる。アノマリーは、既存の理論では説明がつかない市場の非効率性を示唆する事象であり、たとえば、行動ファイナンス理論では人間行動の非合理性(限定合理性を含む)などが要因だと指摘している。
そうはいっても、ファンダメンタルズアプローチを信奉し、アノマリーを占い的なものとして切り捨てる投資家も依然として多い。筆者も決してファンダメンタルズアプローチを否定するつもりはないし、市場で喧伝されるアノマリーのなかには、占い的で"まがい物"が存在することも否定はしない。
長期的にはファンダメンタルバリューに回帰する市場の傾向がある点を鑑みても、ファンダメンタルズアプローチを投資のベースにしっかりと置く必要があるとも思っている。
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