ROEの構成要素を示したものが「デュポンシステム」
残余利益モデルもバリュエーション指標や配当割引を用いたモデルも結局、ROEの向上は株価上昇にポジティブに働く関係にあることがわかる。そして、そのROEの構成要素を示したものが、次の「デュポンシステム」である。
デュポンシステムとは、米国の化学会社デュポンが事業部管理の目的で開発した財務分析手法の一つで、ROEを3つの要素に分けて計算する。このデュポンシステムによれば、
●ROE=「売上高当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ」
となっている。売上高当期純利益率は、売上高に対する当期純利益の割合。総資産回転率は、企業の総資産を使ってどれだけの売上高を生み出したかを測る指標。財務レバレッジとは、自己資本(株主資本)の何倍の総資産を持っているかを測る指標。これらの3項目をそれぞれ上昇させれば、単純にROEが高まることがわかる。
ただし、ROEモデルを使う上でも弱点がある。
たとえば、足元のグローバルな低金利下においては、本業以外の方法でROEを改善することがより可能になっている。具体的には、低金利で負債を拡大させ、財務レバレッジを高めたり、負債を拡大させた上にさらにその資金で自社株買いをするといった形をとることができる。
加えて、カネ余りで買い手を探すことが容易な環境下、外部への資産売却などで利益を上げ、ROEを高めることもできる。このように、負債のコントロールや本業以外の利益計上である程度操作できるROEモデルだけでなく、「ROIC」を活用したモデルを使うヘッジファンドも多い。
「ROIC」で投下した資本に対しての利益率を測る
ROICはReturn on Invested Capitalの略称で「投下資本利益率」と呼ばれ、事業に投じた資金がどのくらいのリターンを生み出すかの投資効率を測る指標で、次のように計算する。
●ROIC=NOPAT÷投下資本
ちなみに、NOPATは事業から得られる利益(支払利息や配当の控除前の利益)であり、「税引後営業利益」と呼ばれる。
また、投下資本は、(a)資金調達サイドに着目してDebtとEquityの合計額で計算する方法と、(b)資金運用サイドに着目して運転資本や固定資産などの合計額で計算する方法がある。
ROEの計算にはレバレッジが含まれているが、このROICにはレバレッジの要素が含まれていないため、低金利下で負債を急拡大させ、自社株買いに充てるような財務戦略で数値が操作されないというメリットがある。
一方、デメリットとしては、ROICは、分母の投資を抑制すれば改善を図ることが可能である。ただ、投資の抑制(特に時間がかかるが中長期的に花開くような事業への投資抑制)は将来的な収益力の低下を招き、事業の縮小均衡をもたらす可能性がある。そのため、ROICの評価においては単年度ではなく、3~5年の中期の時間軸(平均値)を採用して判断することも重要である。
■まとめ
「ROEモデル」や「ROICモデル」を用いるヘッジファンドのデューデリジェンス(調査)を行う場合は、①それぞれのモデルのメリットとデメリットをどのように考えているのか、②そのモデルのなかでどの変数・構成要素に注目しているのか、③社内にROEモデルやROICモデルのメリットを上回る、または欠点を補うような新たなモデルはあるのか、④もしそのようなモデルを活用している場合、そのモデルのどのような点がα(=投資の成果)獲得につながる可能性があるのかなどをしっかりとヒアリングすることも重要であろう。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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